うつ状態から自分と家族を守る予防策
パンデミックの影響で日本でもかなり問題視されているのが自殺者の増加。一年の中でも春先から初夏にかけて増えるという「自殺者」の数ですが、特に5月のゴールデンウィーク明けに多いとも言われています。実際去年の令和4年の場合も5月が最も多い結果になりました。
健康社会学者の河合薫さんによって新入社員を対象に行われた、「入社前から半年後までのメンタルヘルスの追跡研究」によると
五月病は新しい環境への不適応で発症するものではなく、事前の期待とのギャップが強く影響する。また、放っておけば治るわけではなく、周りのサポートなど適切な対処を怠ると、慢性的な鬱状態につながる可能性が高い
ことがわかったそうです。
「事前の期待とのギャップ」=「理想と現実のギャップ」
とも言い換えられるかもしれません。
この時期に増える命にも関わるうつ状態から自分自身や家族・友人を守るためになにができるでしょうか?
今回は「理想と現実のギャップ」を生み出さないためにできる予防策を一緒に考えたいと思います。
「理想と現実のギャップ」を抱えやすい人の特徴
一つは五感などの感覚が鋭い「神経学的過敏性」と言われる一般的に「生まれもった遺伝的・発達的な特性」と関わりがあるものです。もう一つは顔色を過度にうかがったり、傷つきやすかったりする心理的な面と対人関係の面の過敏さを持つ「心理社会的過敏性」で、これは幼少期の親との離別、虐待やいじめなどによって心の拠り所を失った結果によるものが関係しています。
この安心感の拠り所とも言われる「安全基地」(本来であれば親や保護者)がうまく機能していない場合、「心理社会的過敏性」と「神経学的過敏性」のどちらも絡み合っている事例が多いそうです。
心理社会的過敏性の特徴
□自分が一人でいることが不安で、いつも誰かに頼りたくなる。
□人にどう思われているか顔色に敏感で、悪く思われていると感じると、気もそぞろになる。
□自分が相手に不快な思いをさせていないか、いつも気にしてしまう。
□些細な相手の素振りにも、自分が嫌われていないか不安になる。
□間違いを指摘されたり、欠点を非難されると、落ち込んだり、逆にキレたりしやすい。
□人から言われた言葉に傷つきやすい。
□嫌なことがあると、長く引きずる方だ。
□昔の嫌な場面の記憶がよくよみがえってくる。
□苦手な話題に触れられると、動揺したり取り乱したりする。
□一度嫌なことがあると、その相手や場所を避けてしまう。
その人の過敏性は、生まれもった体質だけで決まるといったような単純な話ではなく、それが育まれる長い過程があり、一人一人が、それを抱えて生き抜いてきた哀切な歴史とともにあるということを、はっきりと感じています。
音に対する感覚の過敏さでも、他人からすると滑稽なほどに大騒ぎをし、山の上にまで逃げ惑うという事態を引き起こすわけですが、愛されないことや蔑まれることへの過敏さをもつと、次元の違う痛みと苦しみがもたらされることになります。それはときには、人の命を奪うほどです。
人が幸福に生きるということにしろ、社会でうまくやっていくということにしろ、本気で考えようとするのならば、過敏性というものに対する理解が不可欠なのです。
それでは、親ガチャに失敗したら(両親の離婚・経済的に恵まれない家庭環境・親からの虐待など)幸せになるチャンスはないんでしょうか?
幸福は自分で選べるもの
幸福の遺伝的要因を調べる研究によると3分の1程度は遺伝子によって決定されるようですが、3分の2は環境因子によって変わるそうです。
親を選ぶことはもちろんできませんですし、子どもの頃は自分で環境を選ぶこともできません。でも大人になれば自分で選ぶこともできます。恵まれた環境で育った人も過酷な子ども時代を過ごさないといけなかった人も大人になってからは新たなステージを迎えます。自分の意志と責任で自分の人生を良いものにも悪いものにもできます。
いい意味でも悪い意味でも親から教え込まれた考え方や行動スタイルをすぐに変えるのは難しく引きずり続けますが、家族以外の人と出会い新たな体験を積み重ねるうちに少しずつ自分を縛っていたものから自由になり、自分ならでは(幼少期の経験もひっくるめた)の可能性を開拓することができます!!
でも、みなさんの多くが感じておられるように大人になったからといって無条件に自分らしい生き方ができるわけではありません。
そのためにはまず自分を縛っているものを自覚する必要があります。
せっかく親の支配から自由になっても相変わらず親の監視下の元で生きてきた時と同じような思考や行動をとっていることもあります。それは、思考や行動パターン、価値観や認知の偏りは、無意識かつ自動的に私たちの一部になっているので、その歪みを自覚しにくいことが多いからです。
幸福感は過去の境遇そのものよりも、物事の受け止め方である認知や、現在の安全基地が機能しているかの方が強く関係しています。つまり物事の受け止め方である認知のバランスを整え、過去でなく今の安全基地がうまく機能すれば、たとえ親ガチャに失敗したとしても幸せになれるということです。
そのために私たちが今日からできる「認知のバランスを整える」ためのトレーニング法をみていきましょう。
肯定的でバランスの良い認知に変える
これまでの多くの研究により、ポジティブな感情を増やすことや、肯定的な認知をもつことは、気分を良くし意欲を高めるだけでなく、対人関係や社会適応を改善し、幸福や成功のチャンスを増やすということが裏付けられています。
肯定的でバランスの良い認知に変えるのに筆者は5つのエクササイズを紹介しています。
・希望のエクササイズ
・親切にするエクササイズ
・感謝するエクササイズ
・良いところ探しのエクササイズ
・許しのエクササイズ
ここでは私もコーチングセッションでよく使う「希望のエクササイズ」と「良いところ探しのエクササイズ」をご紹介します。
・希望のエクササイズ
「あなたはどうなりたいですか?」
自分がどうなりたいか、3年後・10年後の理想の自分について書いたり、話したりする。
現在の問題や過去の失敗について考えると落ち込みやすいですが、将来の希望を語ると私たちはやる気が出ます。自分の進むゴールが見えないとどこに向かえばいいかわからず前へ進めませんが、自分がどうなりたいか明確な言葉にすると、進む方向性が具体化され目標へ向かうための一歩を踏み出せます。
「奇跡が起きてなんでもできる力を手に入れたとしたら、あなたはどうなりたいですか?」
ネガティブな思考に囚われて考えてもどうせ無理に決まってると思う時はこのミラクルクエスチョンを自分にしてみましょう。自分を縛ってる今の制限を一旦とって自分の本音を聞いてみます。大事なのは現実にとらわれすぎずに自分の希望を語ってみることです。
自分一人でもできますし、家族でご飯食べながらでもできます。私はよく友人と飲んでる時に将来の話をしますが、友人の話を聞くのも刺激になりますし、頭の中にあるフワッとしたものが話すことで未来の自分がありありとイメージできると気持ちも高揚してその後も意欲的に何かしら取り組んでいる自分がいます。
・人生において良いことを3つ書いてもらう
・自分の強みとなることを新しいやり方で生かすこと
・良いところ探しのエクササイズ
強い自己否定や生きづらさを抱え、死にたいという気持ちにつきまとわれ、自傷や自殺企図を繰り返す状態にも有効な治療で数少ない心理療法として知られているのが弁証法的行動療法で、その治療法の一つの柱となっている「ヴァリデーション戦略」というものがあります。
ヴァリデーション (認証)の考え方や方法はとても有効なので、認知症の人の介護や支援においても、病状の進行を遅らせたり、生活機能の維持やメンタル面の安定のためにも用いられています。
ヴァリデーションとはどういう考え方かと言うと、ありのままの現状を受け入れ、肯定するということです。そのために、できない点や悪化した点にばかり目を向けるのではなく、良い点やできることに目を向け、そこを肯定的に評価するようにします。
「良いところ探しのエクササイズ」は、困ったことや悪いことが起きたときにその見方を逆転させるものです。物事がうまくいっているときは、肯定的な感情や考え方は自然と生まれます。その真価が問われるのは、うまくいかないことに遭遇したときです。良いところがなかなか出ない時は、「ほんの少しでもマシなところを探す」「わずかでも許せるところを探す」といったふうにハードルを下げ一点でも二点でも、零点よりマシな部分を見つけてみましょう。うつ状態の時はとくにネガティブな感情に囚われやすい状態なので、なんでもない日常で良い面をすぐに見つけられるセンサーを鍛えておきましょう。
買ったワインがイマイチ美味しくなかった時、せっかく選んだ旅館がかび臭かった時、楽しみにしていたツアーが雨でキャンセルになった時、事故にあった時、仕事でつらいことがあった時、、、など
ガッカリするようなことが起きたときこそ、このトレーニングをやる絶好のチャンスです。
私も去年、2度目の富士山に日帰り登山に行った時にこのトレーニングをいかす絶好の機会になりました。その前の一昨年は天気も良かったので私のイメージでは満点の星空の中、仲間と談笑しながら日本一を目指すというものでしたが、夜の10時ごろスタートした時からなんとずっと雨。暗闇の中寒さと雨の中黙々と歩き続ける。。頂上に近づくにつれ周りがあまりの寒さに防寒着を着込む中、はっと自分があまり寒くないのに気付きました。凍える友人に自分の防寒着を全部貸したので着るのがなかったのですが、半袖Tシャツ一枚とレインジャケットのみで山頂まで辿り着きました。
自分がイメージしていたものとはだいぶ違いましたが、あの雨と寒さがあったからこそ着用していたワークマンのレインジャケットの高機能さを知ることができ、良い買い物したなーという満足感に浸ることができましたし、今後のアウトドアの最強アイテムとして自分の安心感も得られた日になりました。
この「良いところ探しのエクササイズ」は現実の悪い面だけでなく良い面を捉えようとする力が養われるので、「理想と現実のギャップ」を埋めていくものにもなります。これがスムーズにできるようになると、日常で起こることや相手や自分自身のことも、現状をただ仕方なく受け止めたり、批判的に評価するのではなく、肯定的に受け止められるようになるので幸せに敏感な人になれます。
なぜでしょうか?次の法則が関係しています。
人生の「振り子の法則」
振り子は右に大きく振れるほど次は反対の左側に大きく振れるしくみになっています。振れ幅が小さければもう片方に振れる幅はもちろん小さいです。
同じように人の感情も大きな「不快」があるとそれから離れようとして、大きな「快」に振るのが「振り子の法則」です。
「快と不快」
「苦と楽」
このような正反対の感情の二つが一対で動いていて、私たちのココロのなかを行ったり来たりしています。振り子なので、片方の感情に振れ幅が大きくなると、片方に戻る時の反動も同様に大きくなります。
苦しみが大きければ、幸せも大きい
小さな苦しみしか経験しなければ、幸せも小さい
たとえば、スポーツではつらい練習を積み重ねた後に、大きな大会で優勝できると喜びも大きくなったり、山登りが好きな人は道中大変でも頂上に辿り着いたときの感動を知っているのでまた登りたくなります。これらは振り子の法則に当てはまります。
人生で幸せを感じやすい人は、ココロの振り子が「不快」に振った時にすぐ「快」に振りきる力を持っている人です。
「不快」な出来事が「快」を経験する上で必要なものだと知っているので、困難を楽しむことができます。振り子が「不快」に振ったとしても、「良いところ探しのエクササイズ」でココロの振り子をすぐに「快」に振らせることができます。
うつ状態にある時は、このココロの振り子が「不快」のところでそのまま留まった状態とも言えるかもしれません。「不快」を「快」に切り変える自分用のスイッチを作っておきましょう。ぜひこの2つのエクササイズを日常生活で試してみてください。
・希望のエクササイズ
・良いところ探しのエクササイズ
「休眠打破」
春になると一斉に花が咲き誇りますが、この美しい花を咲かすためには「冬の寒さ」が絶対に必要です。寒さが植物の眠りを打ち破り、成長させ、花を咲かせることにつながるということを「休眠打破」と言います。
植物が「不快」とも言える冬の寒さを、これから自分が花開くための「快」として必要なものとしているように、私たちが経験する「不快」なものも「快」を味わうために必要なものとも言えます。
もしあなたが大変な幼少期を送ってきた一人ならどうか思い出してください。場所も、色も、形も、寿命も選ぶことのできない花たちさえも、生まれた場所で冬を乗り越え美しく花を咲かせることを。
もし今うつ状態になるくらい「不快」を味わっているなら思い出してください。寒さを経験したモノだけが咲かせることのできる未来がすぐそこにあることを。
世界では減少傾向にある自殺問題が日本ではコロナ禍でのストレスによりさらに増加しています。とくに若い世代での死因のトップが自殺になっています。これは先進国では日本のみです。これほどまでに日本で自殺が多い理由の一つとして、他国に比べ「悩みを誰にも相談しない傾向」が強いという調査結果も出ています。
もし今あなたが「理想と現実のギャップ」で悩んだり、苦しんでいるならどうか孤立しないでください。一人でもいいので安心して話せる人に話してみてください。
当サロンでは、愛着障害や繊細さゆえに生きづらさを抱えるご本人や、サポート側のご家族のための認知行動療法をはじめとしたメンタルケアのサポートをしております。
今回はこの時期に咲くネモフィラの生き様から学べることを、映像にしてみました。見た目も名前も可愛い花ですが、−3度の寒さにも耐えることができ、こぼれ種でも自生し、厳しい環境でもぐんぐん育つ丈夫な一面もあります。ネモフィラは北アメリカ西部原産ですが、ヨーロッパに種が渡った際、そこですぐに根付き花を咲かせていきました。その姿から「どこでも成功」という花言葉がつけられたそうです。
どこで生まれても今どんな環境でもそこでしっかり根差したネモフィラのようにあなたが今を生きることを楽しめられるよう願っています。