フラッシュバックを減らす:「今に意識を向ける」
前回のブログでは、「発達性トラウマ」について取り上げました。今回はその「発達性トラウマ」の症状の一つであるフラッシュバックをテーマに扱いたいと思います。今ちょうどkindleunlimitedで無料配信中の本「フラッシュバック対処と予防: アメリカ発 トラウマのプロが教えるフラッシュバックのすべて」の内容が良かったのでその中からまとめています。今現在、悪夢やフラッシュバックに苦しんでいるあなた自身や、あなたの大切な人にとって少しでも役立つ内容になればうれしいです。
発達性トラウマについて
フラッシュバックについて扱う前に改めて、発達性トラウマについておさらいしたいと思います。
私たち人間はみんなそうですが、子どもは特に1人で生きていくことは不可能で、心身の成長や脳の発達のためには、だれかに安全と安心を提供してもらう必要があります。子どもが生きていくためには、養育者との強い絆を持つことが必要不可欠と言われています。
発達性トラウマを引き起こす状況ですが、「幼い頃悪いことが起こり、本来ならそこにいて助け舟を出し世話をしてくれるはずの人がおらず、その状況を切り抜けるために手を貸してくれる人もいなかった」というような状況です。
しかし、発達性トラウマの症状を持つ方の中には、上記のような理由が思い当たらない方もいらっしゃいます。わたしのクライアントの中にも、症状ゆえに苦しんでいるのですが、思い当たる理由がこれといってない方もいらっしゃいます。その場合は「エピジェネティクス」に当てはまる可能性があります。
「エピジェネティクス」とは前の世代のトラウマ体験が、本人に自覚があろうとなかろうと遺伝子レベルで記憶されていて、次の世代の子どもたちの健康や幸福に影響を与えることです。
実際に、ホロコーストのサバイバーの子どもたちは、自分自身がトラウマ的な出来事を体験するか否かにかかわらず、PTSDや気分障害、不安症に罹患しやすいことが知られています。受け入れ難い事実ですが、本人も気づいていない世代を超えたトラウマの影響があるということです。
この事実は、トラウマ履歴を持っていない方たちが、トラウマの症状を持っているなら、それはエピジェネティクスによる隠れた発達性トラウマがあることを説明してくれます。そしてこのエピジェネティクスによる影響は、次世代だけで終わらず、孫やひ孫の世代にも伝搬するとも言われています。
この負のサイクルからどうしたら脱することができるんでしょうか?
実は人間には「脳の可塑性(かそせい)」という素晴らしいシステムがあります。脳の可塑性とは、脳神経系が自らの形を変えていくことができる能力で、環境からの刺激や欲求にすぐに反応しながら成長することができます。シンプルにいうと、状況に合わせて脳はアップデートできるということです。
例えば、視覚障害の方は、触覚や聴覚が優れていると耳にします。それは視覚情報を失った視覚野がそのまま機能停止になるわけでなく、代わりに他の種類の感覚情報、つまり聴覚や体性感覚情報を処理するようになり、その結果聴覚や触覚が鋭敏になるという「異種感覚間可塑性」と呼ばれる現象が生じるからだそうです。
もちろん、この脳の可塑性はある種のストレスを受け続けると、そのストレスに対応した形で、脳神経系が変化してしまい、発達性トラウマなどの症状を引き起こすこともあります。
つまり、自分の脳にどんな環境を与えるかによって及ぼす影響も変わるということです。神経経路を新しい方向に変化させることによって、トラウマの悪影響から脱出することも可能になってきます。
トラウマが遺伝子レベルで引き継がれるということですが、その逆も然りです。私たちがどんなふうに生きるか、幸せでいるかどうかは、単に自分のためだけでなく、自分の子孫たちが幸せに生きられるかどうかにも影響を与えることを考えると、負のサイクルを自分の代で終わらせて、トラウマの悪影響から脱出するためのモチベーションになるかと思います。
フラッシュバックができること、できないこと
まず、覚えておきたいのはフラッシュバックは「記憶」だということです。どれほど強烈に今この瞬間に起きているように感じても、それは「記憶」です。
「フラッシュバックは記憶だ」という事実はフラッシュバックが、あなたに対してできることと、できないことに気づかせます。それは同時にフラッシュバックという現象の弱点を理解することです。そして、あなたがフラッシュバックに対してできることも教えてくれます。
フラッシュバックがあなたにできることは、トラウマ体験を瞬時に思い出させ、それによってあなたの心と体を反応させることです。それは、自分の体をコントロールできないとあなたに感じさせるほどの威力を持っています。
その一方で、フラッシュバックには、以下のようなことはできません。
・あなたの体を傷つけること
・あなたの体を他の場所に移動させること
・あなたに対する人の気持ちを変えること
・まわりにいる人の行動を変えること
・時間を逆戻りさせ、大人のあなたを子どもの姿に変えるなど、人間にできないこと
フラッシュバックはその体験があまりにもリアルなのでまるで現実に起こっているかのように感じます。しかし、あなたを傷つけたトラウマはもう終わりました!トラウマ記憶はもうあなたを傷つけることはできません。
過去の記憶はなくならなくても、それと同時に、あなたのまわりには、なんでもない、安全があふれています。後ほどご紹介する対処法を使い、すでに存在しながらも見過ごしている「今に意識を向ける」ことで、フラッシュバックを早く終わらせることができます。
記憶の仕方:チューニングとプルーニング
悪い記憶が今現在起こっているかのようによみがえる感覚は、本当に厄介です。しかし、それは過去のものでありリアルタイムで現実に起こっていることではありません。
その現象はなんで起こるんでしょうか?それには脳の記憶の仕方と関係があります。
あなたは10年前の思い出し方と、今の思い出し方に違いはありますか。前より鮮明でなくなっている人、 逆に強くなっている人、両方いると思います。これは、脳の中で起こっている「チューニング」と「プルーニング」という作業によるものです。チューニングとは、よく使う大事な情報が強化されていくこと。プルーニングは、要らなくなった情報が忘れられ、整理されることです。
プルーニングは脳が行う断捨離、チューニングは脳で行われる学習(または新しいシナプスの建設)とすると覚えやすいかもです。人の記憶容量には限界があるので、脳に新しい情報が入るたび、チューニングとプルーニングが行われて最適化されていきます。時間の経った情報、もう使わない情報は消去されます。逆に、何度も思い出していると強化されたり、実際の出来事にはなかった尾ひれが付いたりすることもあります。
脳内では、チューニングとプルーニングが毎日行われています。あなたはどちらの方向に、記憶を書き換えていきたいですか。
消去する方向にアップデートしたいなら、「今の自分」に目を向けることが大切です。今の自分は無力な子どもだったころとは違う、今もう自分は大人になっていて、力も、知恵もついている、といったことに着目できます。
プルーニングの要は、「きちんと寝る」ということです。寝ると頭の中が整理されます。だから眠れない人には時として睡眠薬が必要だったり、眠れるように環境調整をしてあげることがとても重要です。
プルーニングをしているときは「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と言ったりします。寝る以外にも、ぼーっとしているとき、散歩しながら色々なことが頭の中に浮かんでいるとき、夢を見ているときがとても大事で、プルーニングがしっかりされているときです。プルーニングによっていらない情報は省いて大事な情報だけ残ります。頭の中が整理されてアイデアが生まれてくるというのもこういう時間だったりします。
思い出せば思い出すほど、チューニングされ、忘れにくくなる。過去のことと割り切り、思い出される前に今のことに注目していれば、少しずつプルーニングされていく(忘れていく)。
これだけですべてが解決するわけではありませんが、脳の中で記憶がどんなふうに形作られるかをイメージしていくだけでも、かなり違ってくると思います。
過去は変えられませんが、解釈し直し、書き換えていくことは可能です。
不安や恐怖に彩られている過去を、大人の目線で理解し直し、現実をあるがままにとらえていくことで、新しく解釈し直すことも可能です。そのときには、不安や恐怖は今とは違うものになっているはずです。こういう整理も、チューニングとプルーニングを促進させることになります。
フラッシュバックを減らすスキル:「今に意識を向ける」
フラッシュバックを減らすスキルですが主に2つあります。「今に意識を向けるスキル」と「リラックスするスキル」です。
「リラックスするスキル」については次回のブログでご紹介したいと思いますので、ここでは「今に意識を向けるスキル」についてご紹介させていただきます。
改めてフラッシュバックとは、昔の記憶をまるで今の現実のように感じてしまい、それに対して心と体が強く反応することです。なので、フラッシュバックの対処は、昔の記憶に引き込まれている意識を、今に引き戻すことが効果的です。(止まってしまった昔の古時計を動かしてあげることで、過去で止まった時間軸を今に合わせてあげる感じ)
「今に意識を向ける」スキルは、フラッシュバックに対して以下のことをする手助けになってくれます。
・昔の出来事を、昔の記憶として感じる
・今の状況を、今の現実として感じる
・結果的に心と体の反応がおさまる
「トラウマとなった体験は『過去』のことだ」と頭ではわかっていますが、無意識に働く脳の一部では、「過去」のこととして記憶されていません。そのためフラッシュバックは、まるで「今」トラウマが起きているかのように感じさせます。
しかし、今に意識を向け、そこにある現実に気づくとフラッシュバックは終わります。
フラッシュバックに悩まされる方には「今は安全だ」と言葉では、気づいている方も多くいます。しかし、フラッシュバックが起きると「今は安全だ」と知っている脳の部分へのアクセスが阻まれます。そのため、「危険だ!」と感じさせます。
その場合も「今に意識を向ける」ことで、そこにある安全に気づくとフラッシュバックは終わります。
フラッシュバックと映画はある意味似ています。少し前にゴジラの映画を見に行ったのですが、没入感のある映画館の中ではまるで自分がその中に存在しているようなリアルさを感じます。あまりにもリアルなので、鼓動はバクバクと早まり、怖さを感じ、ゴジラから逃げようと体が思わず動いてしまいます。
しかし、どんなにリアルな映画でも、客席や壁に目を移すと一気にリアルさが減ります。これが、すでに存在しながらも見過ごしていた「今に意識を向ける」ことです。
映画が終わった後で怖いシーンを思い出しても、太陽の光や風の温度、周りにいる人たちなど五感を意識して現実をしっかり感じて、「今に意識を向ける」なら、「怖いシーンだった」と脳に過去の出来事としてインプットさせることができます。
「今に意識を向ける」行為は、見た映画の存在を否定するものではありません。むしろ、映画の存在を認めながらも「それ以外の事実の存在」に気づかせてくれます。
現実に今自分がどこに存在しているのを意識するなら画面から飛び出てきそうなゴジラに実際に傷つけられることはないと気づけます。
フラッシュバックも同じように存在自体を消すことはできませんが、「今に意識を向ける」ことで、あなたに与える影響を大きく変えることができます。
フラッシュバック対処法
色々長くなりましたが、いよいよフラッシュバックの対処法です(笑)。
フラッシュバックは、残念ながら現段階では完全に無くすことはできません。しかし、脳のアップデート機能(可塑性)を活用してフラッシュバックの影響も大幅に軽減することができます!フラッシュバックを軽減するスキルを使うことで、あなたの脳をアップデートすることができます。
新しい体験で脳をアップデートし、変化を定着させるには、時間がかかります。スポーツや音楽、語学など自然に体が覚えるようになるのに時間がかかるのと同じです。それと同じようにコツコツと続けるとその成果を確実に感じられます。(私も最近スノボをはじめましたが、脳内でのイメージと体の動きがリンクするまで時間がかかりましたが、シーズン中に回数を重ねるうちに少しずつイメージ通りに身体が動いている感覚を味わえるようになりました。)一定期間の間集中して継続するならそれが定着するように脳はデザインされています。
それで、これから脳の可塑性を意識したトレーニングをご紹介する上で覚えておきたいポイントが二つあります。
塵も積もれば山となるように、ちょっとマシも繰り返せばだいぶマシになるような感じです。
・「だれにでも必ず効くというフラッシュバックの対処法」はない。だから色々試して自分にとって効果的なお気に入りを見つける。
フラッシュバックになる要因は人それぞれです。やりっぱなしではなく、検証(セルフモニタリング)して、自分に何が効果的か(マシだったか)どうかを確認する時間を取りましょう。
フラッシュバックの対処法には、感覚や動きなど、「体を使う方法」と「言葉を使う方法」があります。どちらから使ってもOKです。
どこでもいつでもできますが、おすすめは自然の中や自分がお気に入りの空間でする方法です。発達性トラウマを抱えている方の多くは生きるための防衛反応として感覚が鈍くなっています。日常生活で「今、ここ」を感じにくい方は、「今、ここ」を感じやすい、普段とは違う空間や少しでも自分がリラックスできる環境に身を置いて五感で「今」を感じるようにおすすめします。
アクティビティが好きな方は足元が不安定な場所でやるスポーツ(登山・トレイルラン・ボルダリング・スキーなど)をすると、いやでも「今」の感覚に集中しながら身体を動かせるのでメンタルトレーニングにも最高です。一緒にやりたい方は声をかけてください^^
★対処法を使った後は、たとえ少しでも「マシ」になった部分に焦点を当てます。そうすることで、さらにマシになります。 まだ不快な部分には意識を向けないようにします。不快感に意識を向けるとその感覚が強くなるからです。(脳はチューニングとプルーニングで記憶をアップデートするため)
・体を使うフラッシュバック対処法
体を使う方法は環境や状態に意識を向けることで「今、ここ」を感じます。五感を使ったり、呼吸を変えたり、体を動かしたりします。ここでは体を使ってフラッシュバックに対処する8つの方法を挙げているのでその中からあなたに合った方法を見つけてください。
1 目を開け閉じして「今、ここ」を感じる
フラッシュバック中は、意識があなたの内側へフォーカスしすぎています。意識を外側に向けましょう。
あなたがいる環境や状況をしっかりと確認できるように目を開けます。また、目を開けている状態でフラッシュバックが起きた時は、目の開け閉じを数回繰り返しましょう。
2 目で「今、ここ」を感じる
目を使って「今」 あなたがいる環境を脳にインプットします。
・「いない、いない、確認」:周りを見回し、自分に害を与えた人や出来事が今この瞬間、あなたがいるその場所にはないことを確認する
・「違いチェック」:フラッシュバックの記憶と今の状況の違いに気づく(場所、周りの人、天気など)
・「体チェック」:体がなんともないことを確認する。目で見たり、手で体全体に触れたりして、あなたの体が無事であることを確認する。
3 呼吸で「今、ここ」を感じる
「ボックス呼吸」: 正方形のすべての辺は同じ長さであるのと同じように、息をはく・止める・吸う・ 止めるの4つを同じ長さでします。
1.お腹の方からゆっくりと息を吐く
2. 吐いた息と同じ秒数の間、息を止める
3. 吐いた息と同じ秒数の間、息を吸う
4. 吸った息と同じ秒数の間、息を止める
1~4を落ち着くまで繰り返す
徐々に吐く息を長くするとさらに効果的です。めまいや不快を感じる時は止め、他の方法を試しましょう。
4 動きで「今、ここ」を感じる
・「グラウンディング」:足を床にゆっくり押しつけ、その感覚を味わう
・「プッシング」:手で机や壁を強く、ゆっくりと押す
・「スローダウン」:足が地面に着くことをしっかりと感じながら、ゆっくり歩く
・「シェイキング」:手足をブラブラと振るわせる
5 耳で「今、ここ」を感じる
・「音探し」:耳を澄まして、聴こえる音を3つ以上見つける、しばらく聴く
・「口笛」:口笛を長めに吹き、その音をしっかり聴く
・「声だし」:声を出してその音をしっかりと聴き、振動を口やのどで感じる
・「ぐぅ~」:「ぐぅ~」という、お腹に響く静かなうなり声を、ゆっくり長く出す
6 味覚を使う
・「飲み物」:水などの飲み物を少し口に含み、ゆっくりと味や温度、それが喉を通っていく感覚に気づく (アルコール類やカフェイン飲料は避ける)
・「食べ物」:ガムやミントなどを口にし、その味や食感に意識を向ける
7 嗅覚を使う
・フラッシュバックとは関係のない香りを嗅ぐ (例:手元にある飲み物や食べ物など)
・事前にお気に入りの香りを用意しておき、それを嗅ぐ (例:好きな香りのリップクリームやアロマオイルなど)
8 動けないと感じる時の対処法
フラッシュバックはその強烈さのあまり、「動けない」 とあなたに感じさせることもあります。 その対処は「動かせる」部分を感じることです。体の部分で動かせそうな部分を探します。 右手の小指の先かもしれません。息をすることで動く肺のあたりかもしれません。どんなにかすかな動きでもだいじょうです。動かせる部分に意識を向け、そこにとどまります。
氷がゆっくりと自然に溶けるかのように、動かせる部分に意識を向け、自然に起こる変化に気づいてあげます。
・言葉を使うフラッシュバック対処法
フラッシュバックは、脳が「過去の危険」を「今の危険」だと間違えている状態です。その状態を変えるために言葉や記憶を使い、「今の安全」を脳にインプットしてアップデートしていきましょう。言葉を使うフラッシュバック対処法が7つあるので、その中からあなたにとって効果的なものを選んでみてください。
1 フラッシュバックだと認識する
次の言葉を自分に言う。
「これはフラッシュバック。これは昔の記憶で、今の現実ではない。不快だけど、命に関わることではない。これは脳が間違えているだけ。今、ここは安全。」
2 現実に焦点をあてた言葉
次に挙げる事柄を実際に言うことで、フラッシュバックの過去と現在を区別する。
・今の日時と年齢を言う。(例:今は2024年2月26日、午後2時3分。私は今32歳。)
・今の状況を言う。(例:今、仕事中で顧客先に向かう途中。)
3 過去のことを現在進行形でなく、過去形で言う
例:「あの人の声が聞こえている」ではなく「昔、あの時にはあの人の声が聞こえた」
「逃げなきゃ」ではなく、「あの時には逃げなきゃと思った」など
4 経験上の事実に焦点を当てた言葉
・この嫌な気持ちは、少したてばおさまる。
・今までも必ずおさまってきた。
以下の言葉は、真実だと思える場合にだけ使う。
・私を傷つけたあの人は、ずっと遠くに住んでいる。
・私を傷つけたあの人は、もう死んだ。
・今は私を愛してくれる人がいる。
5「T+1」過去の出来事の終わりを思い出す
この方法は、フラッシュバックの原因となったトラウマに、はっきりとした終わりがある場合に使います。T+1のTはフラッシュバックに出てきた過去のトラウマを指し、+1はトラウマが終わった時点を指します。フラッシュバックに出てきたトラウマに関して「大丈夫だ。最悪の事態はまぬがれた。」と思えた瞬間や結果を思い出します。
・助けに来てくれた人の声が聞こえた瞬間
・フラッシュバックに出てきたトラウマによるケガの治療で入院した場合、退院や体の回復を実感した瞬間など
・フラッシュバックに出てきた人のもとから引っ越して、離れた日や、その人が亡くなった日など
6 感覚と言葉を使う
・「描写」:目に留まった物を言い表す (「銀の額に入った旅行の写真」、「低い木に鳥が3羽とまってる」など)。それを繰り返す
・「色探し」:見える物の名前と色を10個言う
・「触感探し」:体が触れている椅子や机を触り、その感覚を感じて、言い表す。(硬い、柔らかい、ふわふわなど) それを繰り返す
・「心地良さ探し」:手触りの良いものに触れて、その感覚を言い表す。それを繰り返す
・「温度探し」:物を触り、温度の違いを5つ見つけ、言い表す。(冷たい、暖かい、室温と同じなど)
7 頭脳を使う
・名前を反対から読む (例:服部信子であれば、こぶのりとっは)
・名前をローマ字にして反対から読む (例: Nobuko Hattoriであれば irottah okubon)
・電話番号を思い出し、反対から読む(例:03-1234-5678であれば、8765-4321-30)
上のいずれも紙などには書かず、頭の中に名前やスペルや番号を思い出して読みます。数回繰り返し、できるだけ早く言ってみましょう。簡単にできるようになった場合は、他の名前や電話番号を使う。意識を集中しないとできないことがポイントです。
トラウマからの回復像
フラッシュバックの根本的な原因は、過去の「広い意味の」トラウマ体験です。そのため、トラウマを治療すれば、フラッシュバックを大きく改善できます。トラウマ治療は、トラウマの記憶を無くすためのものではありません。ゴジラの映画そのものの存在が消えないのと同じでトラウマという過去が、現在に与えている影響を変えるものです。
もしあなたが現在進行形でトラウマに苦しんでいるのなら、今の段階では、トラウマから解放されたらどうなっていくのか、想像しにくいと思います。トラウマ治療がうまくいくと、どんな感じになるのでしょうか。
トラウマ治療が成功するとトラウマの記憶に対する感覚、思考、そして、感情の反応が大きく変化します。
感覚の変化としては、「目の前に迫っていた昔の光景が、今は遠くに見えるようになった」と多くの人が言います。治療前には生々しくよみがえった昔の光景が、色あせてみえることがあります。そして今の周りの風景が明るく見えることもあります。わたしの場合も中学生くらいまではモノクロだった記憶が高校生くらいからカラーで記憶されるようになりました。
感情の変化としては、治療を通して、トラウマ反応で阻まれていた気持ちを感じることができ、完了感を持てるようになります。例えば、怒りや恐怖など、強く感じながらも、ループのように渦巻いていた気持ちの出口が見つかります。また、見過ごしていた悲しみに気づき、大変だった自分への深い優しさを感じます。
思考の変化では、それまでの偏った強い思い込みから、事実に基づいた適切な結論へと変わります。例えば、自分のせいだと思っていたことが、そうではなかったと気づくこともあります。自分は恥ずべき存在だと思っていたのが、恥ずべきは相手だったと思えるようになることもあります。
また、「あの時に、ああしてさえいれば防げたのに」という強い後悔を伴う思考が、「あの時はそれをすることは無理だった」という事実として受け入れられることもあります。そして「自分は自分ができる精一杯のことをしたんだ」と思えるようになることもあります。
思考の変化の特徴は「あの時は大変だったな。」などと「過去形」で思い出せるようになります。「もう過ぎたことだ」など、これまで自分に言い聞かせようとしてもできなかった思いを、実感のある事実として、受け入れられるようになります。過去のことを思い出すと必ず見ていた悪夢も、そういえば最近は見てないなと驚くこともあります。
感覚、感情、そして、思考の変化の結果として、行動にも変化が起きます。その行動は建設的です。例えば、自分にとって害となる人や状況から離れるなど、健康的な方法で自分を守る行動が増えます。
また、自分にも人にも優しくなり、幸福感を高める行動も増えます。毎日の中で小さな嬉しさを発見するのが上手になります。安心できる人とのつながりをだんだんと深められるようになるので、一人で頑張り過ぎないようになります。
これら一連のプロセスは、誰かからの期待や要求で起こすことはできません。そもそもトラウマは自己(主体)を失うことなので、自分自身が主体となって自分のために選択して行動することが必要です。
また、平坦な道のりではありません。何歩か進んでは、一歩下がることもあります。しかし、小さな変化を毎日続けると、大きな変化になります。
もしかしたら「自分には無理だ」「この怒りを手放してはいけない」という気持ちをお持ちの方もいらっしゃると思います。どの気持ちにも善か悪でジャッジしないでください。「今はそう思う」という自分を認めてあげましょう。
そしてもし、今の状況を変えたいと少しでも元気と勇気が出たら、信頼できる人や専門家に相談してください。
もし、最初に相談した方が、あなたが求めているサポートを提供できない場合、どうかあきらめず次の方に相談してみてください。休み休みでだいじょうぶです。
どうか思い出してください!あなたの脳には「可塑性」というアップデート機能が備わっていて、変化し続けることができます。
長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。先日行った鷹狩山トレッキングの様子を背景にフラッシュバックと闘うあなたに向けてメッセージ動画を作ったのでよかったら見てください。
今日この日まであきらめなかったあなたのことを心から応援しています。