生きづらさを抱える人へー 発達性トラウマと生きる
トラウマと聞くと「戦争」「災害」「レイプ」「事件」「いじめ」「虐待」など命に関わるような出来事をイメージされる方が多いでしょう。
このブログを今読んでくださっている方の中にも、この中のどれかの後遺症で苦しんでおられるかもしれません。
私がお会いする方の中にも生きているのが不思議なくらいの壮絶な環境の中で生き抜いてこられた方がいらっしゃいます。
しかし、意外に思われるかもしれませんが、セッションでお話を伺って多いのが、誰もが経験するような日常生活の中で終わることのないストレスにさらされてきた子ども時代を送ってこられた方で、今回のテーマである「発達性トラウマ」の症状を抱えるケースです。
「発達性トラウマ」の症状が重度の場合はうつ病やパニック障害、不安障害、過敏症など日常生活に支障をきたす場合もあります。トラウマは脳のいろんな場所に影響を与えます。例えば言語野の機能が低下するため、イメージできてもうまく言語化されないことがわかっています。そのため自分が経験したことをうまく説明できず周りに理解されにくいので孤立してしまうことが多いです。
なので、今回のブログでは公認心理士みき いちたろうさん著書「発達性トラウマ 『生きづらさ』の正体」 から「発達性トラウマ」の症状とストレスを緩和させる4つのポイントをご紹介したいと思います。
なかなか理解されにくく孤立した中で生きづらさを抱えている方へ、「発達性トラウマ」についての理解を深めていただき、今抱えている生きづらさが少しでも変化するために必要な情報になればと願っています。
発達性トラウマとは
まず、トラウマとは「自己の喪失(主体が奪われること、失われること)」です。
トラウマを負うと、フラッシュバックや過覚醒といった問題だけでなく、自分が自分のものであるという根本的な感覚が失われてしまいます。
トラウマの研究において世界的第一人者と言われるヴァン・デア・コークも 「トラウマは、自分で自分を取り仕切っているという感覚を人から奪う」と述べています。
そして発達性トラウマとは、複雑性PTSDの原因となる子ども時代に負ったトラウマのことです。家庭や学校などで負った慢性的な(反復性)ストレスがトラウマを生み複雑性PTSDの原因となることが多いと言われています。トラウマは決して特別なものではなくだれにでも起こる可能性のあるストレス障害と捉えられます。
主体が失われるケースはいくつかありますが、トラウマが生まれやすいのに見過ごされやすいケースの一つが「機能不全家族」です。
親が親として機能していないケースは子どもにとって大きなストレスとなります。
例えば、親が子どもっぽい振る舞いをする。育児や教育について必要なときに必要な関わりをしない。片方の親や祖父母の愚痴を聞かせる。家族の不和に巻き込む。宗教や特定の思想に傾倒している。本来自然なはずの子どもの感情や反抗、不安定さを異常さの発露ではないかと過度に恐れてしまう。子どもに嫉妬する。親の人生の代償として過度な期待をかけて干渉しすぎる。世の中の常識や社会通念に沿った関わりを持てない。親の不安定な情動から気まぐれに対処する。自らの不適切な接し方をもっともな理屈でごまかす。対外的にトラブルがあっても子どもの味方をせず、常に「あなたにも悪いところがあったんじゃないの?」と、無定見な態度しか取れない。家庭の中で正義が通らない。過度に成果主義的で、プロセスを評価しない。ほかの子どもと比較して貶める、などです。
機能不全家族や愛着障害などは、家庭の歴史の中で一代で築かれたものではなく、遺産のように代々と受け継がれてきたものがほとんどです。どんなに子どもを愛している親でも完璧な親はいなく、社会情勢や周りの環境の影響を受けて一時的に親として不安定になることもあります。
ですので、幼少期に起こるストレスは誰にでも起こる可能性があります。でも子どもにとって親が親として機能しないことはとても大きなダメージになります。
そして親が機能しないことで子どもは、「自分」を失ってしまいます。
実際に「自分」を失うとどんな症状があるんでしょうか?著書で扱われている症状のいくつかをご紹介します。
発達性トラウマの症状
症状1 過緊張・過剰適応
トラウマを負った場合に生じる、最も身近な症状が「過緊張」です。緊張する場面ではないところでもなぜか過剰に緊張してしまうのです。例えば、マッサージを受けにきたお客様の中にも身体にずっと力が入ってしまってリラックスできていない方がいます。頭で緊張を抑えようとしてもコントロールすることはできません。反対に、緊張しないでいようとすればするほど緊張は高まってしまいます。
トラウマでは処理されない記憶が意識下に残っていて、扁桃体が過活動を起こしていると考えられます。常に危機が自分の隣にある状態です。それに対して身体は常に反応を続けています。この緊張や興奮、神経の高ぶりが続く状態を「過覚醒」といいます。 心身が警戒モードである状態です。気が抜けると悪夢やフラッシュバックが起こるのを怖れて、なかなか寝つけず不眠症になったり、眠りが浅かったりします。自分で意識して脳をクールダウンすることができないため、落ち着かせるためにアルコールなどに頼って依存症を引き起こすこともあります。
人といても楽しくない、うまく付き合えない、ということがもしあるとしたらトラウマから来る過緊張を疑ってみる必要があります。人との付き合いでの一体感や心地よさとは、言葉のやり取りではなく、テンション(緊張)の調整によって無意識に行われています。自分の今のテンションは3でも相手のテンションが8だから8に合わせようといった計算を常に頭の中でしているという場合は、過緊張によってその調整がうまくいっていないことが考えられます。
また過緊張と並んでトラウマによって生じる代表的な症状として「過剰適応」があります。過剰適応とは、簡単に言えば、「他人に気を遣いすぎてしまう、周りに合わせすぎてしまう」ということです。
トラウマを負った人は、いろいろなことを先回りして考えることが当たり前になっています。相手の感情や考えを過度に忖度してしまう。相手の雰囲気やちょっとした表情を読み取って、相手が怒らないか、気分を害さないか、と考えてしまうのです。多くの人が集まるような場面であれば、いろいろな段取りに過度に気を回したり、お世話しようとします。しかし、本当の意味で相手の気持ちを洞察できているわけではなく、相手の意識下のはっきりしないものを忖度し、振り回されてしまっているということが多いです。
過剰適応の背景には、相手からの評価、相手に認められることが自分の存在意義とイコールになっている感覚があります。そのため、自分の言動を後で過度に反省したり、自分を責めたり、不安になったりします。「すみません」「ごめんなさい」が口癖になっていることもよくあります。そのような口癖があれば、過剰適応を疑ってみる必要があります。
周りに合わせることを最優先するために、自分の気持ちや考えがわからなくなり、その結果、「自分(自己)」をしっかり保てなくなります。そして自分(自己)がないために、外部の基準に過剰に合わせるしか社会に適応するすべがなくなってしまいます。これは悲しい悪循環です。。
症状2 安心・安全感、基本的信頼感の欠如
トラウマとは、過去に受けたストレスを消化できておらず、危機がすぐ隣にある状態です。そのため、この世界が安心・安全である、信頼に足るものであるという感覚が希薄で、常に警戒しています。
理不尽な目やせっかく積み上げた自尊心を何度もへし折られるような目にあってきたこともあり、物事や経験が積み上がっていくことを信じることができません。1+1が2になる、という感覚が持てない、不意に成果が踏みにじられる、何か予期せぬ力でねじ曲げられてしまう、自分だけがうまくいかないように感じられてしまいます。
頭では安心・安全とわかっていても身体的なレベル、無意識的なレベルではそう思えないため、なんでもないことでも重く深刻に捉えてしまい、気楽に考えることができません。これが強くなると、不安症やうつ状態、対人恐怖、社会恐怖につながることもあります。
症状3 フラッシュバック
「フラッシュバック」とは、不意にトラウマ記憶が蘇り、再体験することをいいます。戦争を描いた映画などで、帰還した元兵士が庭でくつろいでいると、ペットの犬が茂みを通りガサガサッと音を立てた途端に戦場の光景が蘇り呼吸が荒くなりドッと汗をかいて、といった場面がありますが、PTSDによるフラッシュバックの典型的なシーンです。
思考がぐるぐる回ってシミュレーションを繰り返す、というのもフラッシュバックの一種と言えます。過去に負ったハラスメント体験など、屈辱的な状況を反すうして、次はどう対応したらいいかといったことが止まらなくなる状態です。
さらに、フラッシュバックに関連したもので、過去の人間関係をすべて切ってしまうこともあります。過去の人間関係に触れることで、そのときの惨めさが蘇るためそこから逃れようとします。その他、なんらかの感情を伴うフラッシュバックもあります。例えば、不安や怒りのフラッシュバックです。不安や怒りなどの感情が押し寄せてきてその感情が収まらない、というようなことです。 パニックが伴うこともあります。
重いケースでは、フラッシュバックとあわせて人格が変わることがあります。否定的な認知と相まって認知や記憶が歪んでしまうこともあります。
症状4 感覚過敏、感覚鈍麻
トラウマの影響によって、感覚が過敏になることがあります。光や音が苦手、特定の匂いが苦手、身体に触れられるのが嫌など、HSP(敏感すぎる人)といった概念で捉えられているケースの中にも、トラウマ由来のものも含まれていることが考えられます。反対に、感覚が鈍く、膜を隔てたような症状が見られることもあります。離人感や解離症状もあって「自分が自分ではない感じがする」「常に自分を外から見ているような感じがする」「自分と世界の間に薄い膜があるような感じ」という感覚に悩まされる方も珍しくないです。
普通であれば痛みを感じることについて痛みを感じない。疲れを知らずに働き続けて限界まで来てダウンする。人とのやり取りでワンテンポ遅れるような感じになりとっさに反応できない。自分の感覚がよくわからず、うまく答えられない。暑さ、寒さを感じにくい、など、鈍感すぎる場合も発達性トラウマによる症状として考えられます。
感覚過敏は本人も違和感を感じやすいので周りにも気づかれやすいですが、感覚麻痺は本人が「感じない」のが特徴で自覚しないため、周りも気付けないことが多いです。知らないうちにアザができていて友達に言われて初めて気づいたり、骨折だと気づかずに普通に生活していたり、寒い気温なのにめちゃくちゃ薄着などは感覚麻痺に当たる可能性があります。感覚が鈍感ゆえにスリルや刺激を求めることもあります。自分の存在を感じるために自傷行為をして自分を認識する方たちもいます。
症状5 ねじれた複雑な世界観
健康な世界観はシンプルです。嫌なことは嫌、おかしなことはおかしい、楽しいことは楽しい、というものです。しかし、トラウマの世界観はとても複雑でねじれています。
例えば、理不尽な目に遭ったら、「この理不尽さに耐えてこそ、成長できる」「嫌でも、逃げてはいけない」あるいは、「理不尽な人ほど、本当は良い人で愛情がある」と考えてしまいます。また相手が喜んでいても「本当は怒っている」というように考えることもあります。これは、トラウマを負った人によく見られる考え方です。理不尽な目に遭わせてきた人が自らの行為を正当化するために「お前が悪い子だからだ」「愛情のためだ」といったねじれた理屈を洗脳され続けたことも強く影響しています。さらに、「自分がいい子であれば・・・」「本当はお父さん、お母さんは愛してくれているんだ・・・」という自分を守るために作り出したファンタジーも影響します。
理不尽な経験と合理化が影響し、世の中の捉え方もねじれて複雑になってしまいます。そういう状況で長く過ごしていれば、ねじれた考え方、感情になるのも当然です。屈託なく自己表現をすることができなくなり、自分が失われ、自分の考えや感情もよくわからなくなります。いつも落ち着かず、安心できない世界を生きているようになります。
心の中に生じたストレスに幼い頃から慣れてしまった人は、ストレスがないと不安になり、退屈で生きる意味がないように感じます。アドレナリンやコルチゾールといったストレスホルモンへの嗜癖が身に付くせいだとも言われています。私はこの症状を野生動物が動物園の檻の中に入れられるような心境とたとえています。
命の危険が常に隣り合わせにあった状態、ストレスが常にある状態がデフォルトの中で幼少期を送るとストレスがない状態になった時に逆に違和感を感じ、生きていることを感じにくくなります。なので一般的な価値観や世界観とは違った価値観や世界観を持つようになります。
症状6 主権を奪われるー時間、感情、思考
・時間
トラウマは、時間の流れを止めてしまいます。同じ世代の人と比べても自分が幼いように感じてしまう。実際に見た目が幼く見えることもあります。考え方が成熟していない感じがします。一方で、妙に早熟だったりもします。子どものころに大人の理不尽さに巻き込まれることで、あるいはストレス状況を乗り切るために過剰に適応し、大人にならざるを得なかった状態です。
本来、健全な成熟のためには、わがままになれる時期や反抗期が必要です。しかし、周囲に過剰適応した結果、本当の意味で成熟できず、形ばかりの”ニセ成熟”となってしまうのです。また、記憶が更新されないために、当時のままの世界観、人間観でいます。
時間に対する主権、主体感覚を奪われると、過去の出来事を捉え直して意味のあるものとし、役立つ部分を導き出したり、他者の考えや価値観からでしか自分の過去を解釈することができません。常に生き急いでいる感覚も強くあります。こうしている間にも自分の研鑽のために何かしないといけないのではないか?安穏と過ごしてはいけないのではないか?という焦りにも似た感覚を持ちます。
トラウマティックな出来事から自分を守るために記憶がなくなってしまう、思い出せなくなることもあります。「解離性健忘」といいます。あまりにもストレスが大きいために、記憶を抑圧します。船体に穴が開いた際に船が壁を閉鎖して沈没から全体を守るように、衝撃から自分を守るメカニズムと考えられます。
悩みとは常に複数要因で成り立っています。そのため、トラウマを克服するためには記憶を回復させたり、何がトラウマかを特定する必要はありません。記憶を回復させて治るわけでもありません。無理に取り組むことで、過誤記憶(本当の記憶ではない誤った記憶)を生むおそれもあります。
・感情
トラウマの影響として、自分の感情がよくわからなくなる、感情表現がうまくいかなくなることがあります。感情と表情、態度がうまくつながらなくなります。自分の感覚がよくわからず曖昧で自信がありません。
自分の意見を言う場合もまず「普通はどうなのか?」 「ほかの人はどう感じるか?」ということを反射的に考えてしまいます。他人の考えを忖度することが無意識に行われます。自分で何かを決めることもとても苦手で時間がかかります。何が好きか嫌いか、を判断することも苦手です。
また、自分の考えていることが相手には全く違って伝わっていることも多々あります。誤解されることも多く、喜んでいても悲しんでいても「淡々としているね」と言われたり、自分は同じスタンスで変わらずいるのに、勝手に好きになられたり、勝手に嫌われたりすることもあり戸惑うことが多くなります。
自分が意図することと、外に伝わる動作、反応とが一致せず、思ってもみない評価を受けるので人間関係に疲れて他人と距離を置くケースもあります。
・思考
自分に関連して何かが起きたときに、自分の感情や考え(主観)から反応するのではなく、常にほかの人ならどうか?と考えてしまう「過剰な客観性」という自己の喪失もあります。不満や怒りを表現して当然な場面でも「もっとしんどい人がいる」と考える。また、対人関係で理不尽な目に遭っても「自分にも悪いところがあった」と考えてしまいます。他者の理不尽な考えや感情に振り回されてしまう結果となります。
過剰な客観性のもう一つの要因として、加害者への反発や反面教師ということがあります。トラウマの原因となった人たちが「主観的」で「感情的」に振る舞っていたことに対する嫌悪感や、そうはなりたくない、という意識があります。
なので主観や感情をレベルの低いものと考えてしまい、自分は常に冷静かつ客観的であろうとします。
ストレスを緩和させる4つのポイント
上記であげた症状はほんの数例ですが、思い当たる節がある方も意外と多いじゃないんでしょうか。最初の方で述べたようにトラウマは決して特別なものではなく、だれにでも起こる可能性のあるストレス障害なので驚くことでもありません。
ストレスは生きていればだれも避けることができないものです。しかし、同じ出来事があってもそのストレスを緩和することは可能です。そのためには・予測する・コントロールする・我慢しない・サポート体制を作るという4つのポイントがあります。具体的にみていきましょう。
・予測する
第二次世界大戦の際、イギリスはドイツ軍から空襲を受けていました。ロンドンには毎日のように空から爆弾が落とされるので、死に瀕するような最重度のストレスです。一方、郊外は空襲が少なく、頻度も散発的でした。当時、空襲のストレスによって胃潰瘍になるイギリス国民が急増したそうです。都市と郊外のどちらでその割合は高かったでしょうか?ストレスの強度で見れば圧倒的に都市のはずです。
しかし、意外なことに、実際は空襲が散発的だった郊外のほうがその割合は高かったのです。その理由は、空襲が毎晩のように続き予測可能だった都市はストレスが少なく、空襲が散発的で予測しづらい郊外のほうがストレスは強かったからです。
このように、たとえ死をもたらすような強度のストレスであっても、予測できるとストレスは軽減され、予測ができないと大きなストレスになることがわかります。
もちろんすべてを予測することは不可能ですが、ある程度予測して準備しておくことは可能です。そのために必要なことの一つは自分のことを知っておくことです。認知行動療法の一つですが、自分を観察して自分がどんなことで感情を揺さぶられるのか、ストレスを感じやすいのか、人それぞれ考え方のクセがあるので、それを前もって知っておくと対策を取れます。
いつ起こるか分からないような災害の場合もそうですが、前もってどこに避難して何を持ち出したらいいのか正しい情報と共にシミュレーションして準備しておくなら、実際に被災した際に、用意ができているので落ちついて行動できますし、安心安全を確保しやすくなるのでストレスも緩和できるでしょう。
・コントロールする
ラットに電撃を与える実験があります。3匹のラットを用意して、2匹のラットにはしっぽに電極を付け(ラットA、B)、1匹(ラットC)は比較のために何も付けません。ラットAは、ボタンを押すことで、ラットBの電撃も含めて刺激を止めることができます。ラットBにもボタンはありますがダミーです。押しても止める効果がありません。つまり、ラットAは状況全体をコントロールすることができますが、ラットBは状況をコントロールできず、電撃が止まるかどうかはラットAの行動次第です。この状況でラットにどんな影響があるか調べます。
結果は、状況をコントロールできないラットBにはひどい潰瘍ができてしまいました。電撃の強さは同じですが、状況をコントロールできるラットAのストレスはかなり少なく済んだのです。私たち人間もコントロールできない状況は、結果的に短時間であったとしても、強いストレスと感じられることがあります。
逆に問題を予測し、対応策をとることができるならある程度コントロールすることができるので、同じ状況下でもストレスを最小限に抑えることができます。
私自身仕事柄、ストレスを抱えた方のお話を伺うことが多い生活を送っています。度々「疲れないんですか?」と聞かれます。たしかに、以前は私自身、発達性トラウマの症状のひとつで他人といると気を使いすぎて疲れてしまうということがありました。しかし、今は状況をコントロールできるようになって他人といる時間を純粋に楽しめれるようになりましたし、ネガティブな話を聴いても疲れなくなってきました。
私の中でのコントロールするコツは、すべてをコントロールしようとするのでなく、自分の身近な小さなことから始めることです。例えば、自分が落ち着く場所を選んだり、自分の好きなことを一緒にしたり、目に入るところに自分の好きなものを置いてみたり、自分のテンションが上がる音楽をかけたり、自分の好きな飲み物や食べ物を用意したりします。相手にすべてを合わせて自分も相手の色に染まるのではなく、自分の色は残して寄り添います。
もちろん相手をコントロールしようなどとはしません。相手の在り方はそのまま尊重します。しかし、自分の主体はあくまでも残して自分のことは自分でコントロールできるようにしておきます。そうするなら不思議とアレルギー反応が出ている場所や人に対して落ち着いた反応をしている自分に気づくようになります。
特定の人や場所に対してアレルギー症状やパニック症状が出やすい人にはおすすめな方法です。
・我慢しない
3つ目のポイントは我慢しないことです。
また同じくラットを使った実験ですが、今度は、2匹のラットを用意し足をテープで板の上に固定して、拘束というストレス実験を行いました。そして、ラットAには、棒を与えてかじることができるようにしました。一方、ラットBには何も与えませんでした。つまり、ラットAは棒をかじることでフラストレーションを発散することができ、ラットBは発散することができません。それによってストレス度を比べてみたのです。
すると、発散できなかったラットBには潰瘍ができるなど強いストレスが見られましたが、発散することができたラットAはストレスが軽く済んだという結果になりました。さらに興味深いことに、負荷をやめたあとのストレスホルモンの値を計測すると、棒をかじって発散することができたラットAはホルモンの値がすぐに落ち着いたのですが、発散することができなかったラットBはホルモンの値がすぐには下がらずしばらくストレスが続いていることがわかったのです。
この実験からは、我慢する時間が長ければ長いほど、影響が長時間続くということがわかります。発達性トラウマの場合も、命に関わるような重大なストレスから比べるとほんの小さなストレスであっても、感情を押し殺していたり、気を紛らわすものがなく、ずっと我慢してきたのであれば、原因となるような状況から解放されてもその後の人生で長く影響を受ける可能性が高いことが想像できます。
なのでストレスを感じたら、どうか我慢しないでください!ネガティブな感情が出てきたら押し殺さずに日記などに吐き出してみてください。信頼できる人にシェアしてください。身近に気を紛らわすもの(香り・音楽・飲食・ぬいぐるみなど五感を意識できるもの)を用意しておきましょう。すぐに行動できない場合でも大丈夫なように、自分を落ち着かせるイメージや合言葉を用意しておきましょう。
・サポート体制を作る
ソーシャルサポートについては、ストレス学だけではなく、心理学や社会学など様々な分野で研究がなされてきました。配偶者がいるかどうか、友人や家族がいるかどうかで平均余命の差が生じる、乳がんの患者で、グループセラピーを受けた患者とそうではない患者とを比較すると、グループセラピーを受けた患者の余命は2倍も長い、などソーシャルサポートと健康との関連を示す調査や研究は数多くあります。サルを使った実験でも、仲間の多いサルと少ないサルを比較すると、仲間の多いサルは明らかにストレスホルモンの値が低いことがわかっています。
社会的な動物である人間にとってソーシャルサポートは生存の基盤であり、つながりが切れる、孤立は心身に重大なダメージがあります。
とはいえ、発達性トラウマの症状を抱えた多くの方にとって、だれかを心から信頼することがどれだけ大変なことかはよくわかります。私もそうでした。「どうやって頼ったらいいかわからない」「そもそも自分なんかを助けてくれる人なんていない」そんなツラさと今まで生きてこられただろうことを容易に想像できます。
なので、100%自分を理解してくれる人、頼れる人を探す必要はありません。1%でも自分の中に可能性がある人や存在を少しずつ集めてそれがやがて100になっていきます。まずは絶対にサポートしてくれる人を選んで頼るトレーニングをします。スーパーに行ってお金を払ったら商品をくれる、店員さんに商品の場所を聞いて教えてもらう、そんなことから始めて、頼ったらサポートしてもらえるという経験を自分の中に重ねていきます。そうやってあなたのサポーターたちの輪を少しずつ広げていきます。
生きづらさを抱える人へー 発達性トラウマと生きる
ここまでで、発達性トラウマの症状と、このトラウマはだれにでも起こる可能性のあるストレス障害であり身近な問題であること、そしてトラウマの原因になるストレスを最小限に抑える方法について考えることができました。
発達性トラウマの症状は幼少期に長年ストレスにさらされてできあがったものです。ある意味自分の一部のようになっている発達性トラウマを自分から切り離して、全く違う新たな人生を送ることができたらと願いますが、そうすることは現状難しい話です。ですが、自分が抱える発達性トラウマの症状を知り、それとうまく付き合っていく方法を学ぶことで生きやすくなることは可能です。そのために思い出したいポイントは上記で学んだ4つの方法です。
「自分を観察してストレスになりそうな状況を予測し準備すること、コントロールし、我慢せず、孤立しないで頼ること」
当サロン頭心大では、発達性トラウマを克服したいと思われる方のサポートをしています。克服する上で5つのステップがあります。
- 「環境を調整する」
- 「身体(自律神経など)を回復する」
- 「自己(主体、セルフ)を再建する」
- 「記憶・経験を整理する」
- 「他者(社会)とのつながりを回復する」
クライアントの方にとって必要なステップに合わせてサポート体制を整えておりますので、もしあなたが、今抱えている生きづらさから抜け出したいと思っておられるのなら、一度無料カウンセリングを利用してお話を聴かせてください。あなたがあなた自身のために奮起する一歩を応援できれば幸いです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。最後に、アニメの王様ランキングで心に響いた言葉をあなたに贈ります。
「あなたが気にしていることはもしかしたら長所なのかもしれない。
あなたはその欠けたもので普通の人にはない、いろんなことを経験しています。
それは苦しいけれど、きっと自分の道を切り拓く力になるでしょう。
だから自分のすべてを愛しなさい。」
ー王様ランキング