心を動かす共感の力

わたしたちが普段無意識レベルでしている「比較」や「評価」「決めつけ」が、自分自身や相手に誤解を植え付け、無駄な争いや緊張を生み出してしまうことがあります。

家庭や職場といった比較的小さなコミュニティであっても、国と国のような大きなコミュニティであっても、基本的には人間関係のこじれが大きな問題へと発展することがほとんどです。自分も相手も思いやりながら円滑に対話する秘訣はなんでしょうか?

今回、世界各地の紛争地域でも実際に活用されているコミュニケーション手法(NVC=非暴力コミュニケーション)、「話し方」の教科書とも言われているNVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法から、普段の私たちの生活で役に立ちそうなポイントをまとめてみました。マイクロソフトの社風を一変させた“再興の立役者”とも言われるCEOのサティア・ナデラ氏がトップ就任直後に本書を幹部社員たちに薦めた本でもあって、ビジネスの現場でも注目を浴びているそうです。

ここでは特に、今回のテーマにもしている「心を動かすことができる共感力」を育てる上で必要な段階をあげていきます。具体的には、評価や決めつけではなく、「自分が抱いている感情」や「自分が必要としていること」に耳を傾け、それを肯定的な言葉で相手に伝える、というステップがあります。一緒に心を動かす共感力を育てていきましょう^^

共感とは

共感とは、自分以外の人の経験を敬意と共に理解することです。「相手が何を観察し、感じ必要とし、要求しているのかを聞く」ことを「共感を持って受け取る」と言います。

残念なことに私たちにはちょっと悪いクセがあって、共感の代わりに、アドバイスをしたくなったり、励ましたり、自分の立場や気持ちを伝えたくなります。共感するには、一度自分の頭の中のものをクリアにして、相手が発信するメッセージにすべての注意を傾けることが必要です。そのためには相手が満足のいくまで自分を表現し理解されたと感じるのに必要な、じゅうぶんな時間と空間を提供することが大切になってきます。

共感をせずに失敗する例

・アドバイスするー「・・・・するべきだと思う」「どうして・・・・しなかったの?」
・うわてに出るー「そんなのたいしたことではない。 わたしに起きたことを聞いたら、よくわかるはず」
・教え諭すー「もし・・・・さえしたら、これは非常に有益な経験となるはずだ」
・慰めるー「あなたがいけないのではない。あなたはできるかぎりのことをした」
・自分語りー「それを聞いて思い出すのは、わたしがあのときに・・・・」
・話を切ってしまうー「元気出して。そんなにしょげないの」
・同情するー「まあ、なんてかわいそうなのかしら・・・・」
・尋問するー「それはいつから始まったんだ?」
・説明するー「電話しようと思っていたのだけど・・・・」
・まちがいを正すー「その経緯はちがう」

相手に自分の言葉を聞いてもらいたいのであれば、まずは自分自身が相手に共感することが必要です。

たとえ相手がなにを言ったとしても、上記の色々言いたくなるものはいったんこらえて、まずは「相手が何を①観察し、②感じ、③必要とし、④要求しているのかを聞く」ことに注力しましょう。

相手を理解するためや、状況を把握するために情報を得る必要があるときには、まずこちらの感情と必要としていることを相手に伝えることで警戒心を回避することもできます。時として自分の弱さを見せることで相手の心が動くときもあります。

私たちはそれぞれ立場や育った環境が違うので、相手の話を100%正しく理解することは難しいです。なので、相手が話してくれた内容を自分が正しく理解できているかを知るためには「言い換え」をすることで誤解を避けることができます。(言い換えのテクニックは前回のブログで取り上げています。)

ここで思い出したいのは共感には「人の経験を敬意と共に理解すること」が含まれることです。相手の話を自分が理解できているかを確認する努力を怠らないことは、相手に対する敬意を示すことにも繋がります。その結果時間の倹約につながることもあります。

それでは共感力を育てる上で大切なステップをみていきましょう。

評価をまじえずに観察する

評価(考え)と観察(事実)をセットにしてしまうと、相手は批判されていると捉えがちなので、こちらが伝えたいメッセージが届かないことがあります。

またレッテル貼りをすると、それが肯定的なものやニュートラルなものであっても、私たち自身、先入観に囚われ偏った見方をしてしまい、フェアじゃないなーってこともありますよね。

まったく評価をしないというのは難しいですが、評価(考え)と観察(事実)を分けるなら、物事を固定的に捉えたり、先入観の支配から解放されます。私と一緒に認知行動療法をされている方なら「あーあれか」となると思います^^

ジャッジしたがりな思考ではなく、「ノンジャッジな観察力」を磨くなら、自分自身や相手に対してフラットな視点や公平な見方ができるので、人間関係でのストレスがだいぶ減ります。

・評価(考え)と観察(事実)をミックスさせた例

・息子はいつも後回しにする
・彼は昨日、理由もなしに私に腹を立てた

・評価(考え)と観察(事実)を分けた例

・息子は試験の前夜に勉強する
・彼は昨日、私に腹を立てていると言った

感情を見極め、表現する

私たち日本人の多くは人の顔色を伺って、相手が求める応えは何かを考えるように訓練されていますが、逆に自分はどう感じているかを自覚したり、感情を表現する術を学べない環境にあります。なので感情を見極めて表現するというのが苦手で、身近な家族であっても上手にお互いの気持ちを伝え合うのが難しいこともありますよね。

セッションをしている方の中でも、感情のモニタリングをしていただく際、「考え」を言われる方が圧倒的に多いです。(私自身も自分が持つ感情に対して鈍感に過ごした時間が長かったので、自分がどんな感情を持っているか気づくまでにかなり時間がかかりました。)

「自分がどう感じているか」(感情)と「どう思っているか」(考え)を区別することが必要なのは、受け止め方・考え方次第でストレスが大幅に減るからです!

感情は自分で直接コントロールすることは難しいですが、考えは自分でコントロールすることができ、ネガティブな考えが変わることで感情もニュートラルに落ち着いたり、ポジティブになることもあります。また相手の考えや行動を直接コントロールするのは難しいですが、自分の考えであるならコントロールできるので人間関係のプラスにも役立ちます^^

悪い例ですが、夫と気持ちを通わせられなくて寂しさを抱えている主婦が夫に「壁と結婚しているみたいに感じる」という表現をするなら、良い方向に改善するでしょうか?夫は自分への批判として受け止め傷つき、やる気がうせ反応しなくなり、妻からするとさらに壁のような存在になってしまいます。

「壁と結婚しているみたいに感じる」

上記のように「〜感じる」という表現は実際には感情を表現する言葉ではなく、思いや考えを表現する言葉になります。

感情をありのまま表現するには「〜と感じる」という言葉は要らず、「寂しい」「がっかりしている」などという言葉が適しています。

「無視されたように感じる」

これもよく聞くセリフですが、あくまでも他人の行動に対する自分の解釈を表現していて、自分がどう感じているかを表現しているものではありません。人によっては無視されてホッとする人もいますし、放っておいてほしいと願っているときもあるので必ずしもネガティブな感情が発生しているとは限りません。もちろん仲間と一緒にいたい時は無視されていると思うとだれだって傷つきますが。。

以下は自分の感情を表現する例です。リストの中以外にもたくさんありますが、自分の感情を観察するときに参考にしていただけたら嬉しいです。

・必要としていることが満たされているとき

あたたかい・ありがたい・安心・生き生きする・愛おしい・嬉しい・穏やか・開放感・解放感・感心する・感動する・希望・幸福・興奮する・高揚した・心地よい・好奇心をそそられる・心強い・充足感・さわやかな・楽しい・励まされる・誇らしい・楽観的

・必要としていることが満たされていないとき

意気消沈・飽き飽きする・うんざり・懐疑的・悲しい・気落ち・悔しい・苦しい・幻滅・孤立感・混乱・困惑・さびしい・嫉妬・失望・失意・消耗する・心配・切ない・つらい・パニック・不安・不快・惨め・無感覚・憂鬱・落胆

自分の感情に責任を持つ

意外に思われるかもしれませんが、人の言動は、自分の感情を「刺激」することはできますが、「原因」になることはできません。それは、人の言動をどう受け止めるかを「選択」する自由意志が私たちそれぞれにあって、その選択の結果やその時必要としていることや期待していることが感情を引き起こす原因になるからです。(上記の無視されたと思う時の例のように)

人を判断したり、批判したり、評価したり、解釈したりすることは、実は自分が必要としていることや価値観の遠回しの表現だったりします。自分が思うままに批判をぶつけてしまうと相手は自己防衛のために反撃したくなったり、無反応になったり、嫌々行動することもあります。それよりも自分の感情を自分が必要としていることとつなげて伝えるなら相手が持つ共感力を刺激することができます。

・自分の感情と自分が必要としていることに意識を向ける

私たちがやってしまいがちなミスで自分の感情を相手のせいにするというのがあります。

例えば親が子どもに向かって「あなたの成績が悪いと、ママとパパは悲しい」といえば、子どものふるまいが両親の幸福や不幸の原因であるとほのめかしていることになります。最初は子どもは親を気づかい、両親の苦しみに対して申し訳ないと思い、親が望むしかたで行動しようとします。しかし、責任を感じて子どもが親の願いを叶えるために行動を変えたとしても、それは子ども自身が心の底から行動を起こしているのではなく、罪悪感を避けるために行動を起こしているだけでやがて反抗するようになります。

A:「あなたがごはんを全部食べないと、ママはがっかりする」

B:「あなたがごはんを全部食べないとママはがっかりしてしまうわ。ママはあなたに強く健康に育ってほしいから」

Aはがっかりすることの責任をすべて子どもの行動に押し付けています。しかし、Bは、その奥にある自分の期待していることを認めることで、自分の感情の責任をとっています。

自分は何を必要としているのか、どんな願望や期待、希望、価値観が満たされていないのか。自分の感情が相手の言動に起因しているのではなく、自分の必要としていることとつながっているということを自覚するなら、相手を批判した言い方ではなくなるので、相手もこちらに共感しやすくなり、受け入れやすくなります。

人として共通する基本的なニーズの例

自律性
・自分の夢や目標、価値観を選ぶ
・自分の夢や目標、価値観を実現するための計画を選ぶ
価値観に沿った言動をする
・誠実さ・創造性・意味・自尊心
相互依存
・受容・承認・親密さ・コミュニティ・配慮・人生を豊かにするための貢献・心の安心・安全・共感・愛・励まし・尊敬・支援・信頼・理解・温かさ
遊び
・楽しさ・笑い
精神的な交流
・美・調和・インスピレーション・秩序・平和
身体的な養い
・空気・食べ物・運動、エクササイズ・ウィルス、バクテリア、害虫、捕食動物など、命を脅かすものから身を守る・休息・住まい・ふれあい・水

つらくて共感できないとき

当たり前のことですが、人に何かを与えたいとき、自分がそれをもっていなければ与えることはできません。共感することも同じで、努力しているにもかかわらず、どうしても共感できない、または共感する気になれない場合というのは、自分自身が他者からの共感をめちゃくちゃ必要としているサインです。

共感を与えるには、まず、自分が共感してもらうことが必要です。

だれかそばに共感してくれる人がいるなら良いのですが、いつもそんなタイミングがいいとは限りません。そんな非常事態にできる自分でできる3つの方法があります。

①自分で自分に共感する

人に共感するときと同じように、評価や批判をいれずに、自分の内面で起きていることに耳を傾けます。自分が今何を観察し、感じ必要とし、要求しているかを自分自身に穏やかに思いやりを持って聞いてみます。

これはセルフコンパッションというやり方で自分への共感力をトレーニングすることができるので、興味がある方は当サロン頭心大公式ラインにてお問い合わせください^^

②非暴力的に悲鳴をあげる

これは例えば子どもの取っ組み合いの喧嘩を目にした時に、「いったい何ごとだ?どうして喧嘩なんかするんだ?こっちはたいへんな1日を終えてやっと戻ったところなんだぞ!」といったふうに怒鳴りつけたり、相手の行動を暗にとがめたりすることでもありません。

それよりも、いまこの瞬間、自分が抱えている痛みや必要としていることに、どうか注意を向けてくれと非暴力的に悲鳴をあげることです。「おいおい、パパはとてもつらい気分なんだ!いまはきみたちの喧嘩の仲裁はしたくない!いまはただ平和と静けさが必要なんだよ!」といったかんじにです。

苦悩を抱えているとき、だれかを非難するのでなく自分の痛みをありのまま話すことができれば、相手が耳を傾けてくれることもあります。

③いったん休息をとる

ほとんどの場合がそうかもしれませんが、相手も自分と同じようなつらさを抱え、こちらの言葉に耳を傾けることも、そっとしておくこともできないという場合はどうでしょう?

大丈夫です、まだもう一つ選択肢が残っています!そこから自分を物理的に隔離することです。いったん休息をとり、ちがう気持ちでそこへ戻ってくるために必要な共感を得るための時間を自分に与えてあげます。

心を動かす共感の力

アメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズは、人が誰かに共感してもらう効果を次のように表現しています。

「何かをいったとき、誰かがそれに真摯に耳を傾け、なんの決めつけもせず、責任を背負い込もうとせず、型に押し込もうともせずに聞いてくれたら、じつにいい気分になる・・・・・・誰かが耳を傾け聞いてくれると、わたしは自分の世界を新しくとらえ直し、先に進むことができる。解明できそうになかったさまざまなことも、誰かが耳を傾けてくれるだけで解明できるようになる。なんともはや驚きだ。誰かがわたしの言葉を聞いてくれれば、どうにも手のつけようがないと思っていた混乱がスムーズに流れるようになる」ー出典:NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法

共感力は、相手または自分の内部でほんとうに起きていること、その人が今その瞬間に体験している感情必要としていることと、ともにいるという能力です。

相手に共感することができれば、自分の弱さをさらけだすことも、相手が「ノー」と言っても拒絶とは受け止めないことも、共感するのが難しいとされる沈黙でさえもその奥に佇む感情と必要としていることを聞き取ることも可能になります。

言葉に真摯に耳を傾け、なんの決めつけもせず、責任を背負い込もうとせず、型に押し込もうともせずに聞くなら、心を動かし、自分の世界を新しくとらえ直し、先に進むことができるよう背中を押すことができる。。そんな癒しの力を持っている共感を身近な人との間で、まずは自分自身に向けるところから始めてみませんか。

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