子どもに必要な4つの「S」

前回の記事「幸せなギバーであり続けるためにできること」では「自分自身をいたわる」大切さについて取り上げました。皆さんはがんばった昨日の自分に何かしてあげられたでしょうか?もしまだなら早速ご褒美タイムを作ってあげてくださいね。その日その日でストレスになること、その大きさは変化していきます。この暑さも人によってはかなりのストレスになります。普段よりもストレス度が高いときはいつもよりちょっとご褒美を増やしたり時間を多めに取ったりして自分を気遣う時間を取るのを忘れないでください。

自分自身が毎日どんなことをがんばっていて、どんなことにストレスを感じるのか、それを理解した上で気遣えるようになるーこれが習慣化していけば次のステップです。

今回は、逆境の影響から子どもを守るのに必要な4つの「S」について取り上げます。子どもと言いましたが、私たち大人も含めどの世代の人にも、特にACE(逆境的小児期体験)を持つ方は自分自身に対して必要な「S」になります。これは対人関係の神経生物学学者、ダン・シーゲルによると子どもの心に深い愛情を育てるためのベースになるポイントだそうです。愛されていること、認められているという安心感や穏やかな気持ちがあると私たちは弱気にならずに問題に対して立ち向かえる強さが得られます。

この世に存在するすべての逆境やトラウマを引き起こす出来事から子どもを(幼かった自分も含め)守るのは不可能なことです。しかし、逆境が与える影響をできる限り抑えることは可能です。そのためにできるのが子ども自身(私たち自身)が「気にかけられている(seen)」「安全(safe)」「落ち着かせてくれる(soothed)」「守られている(secure)」と感じるようにすることです。これは親子関係・夫婦関係また、私たちが大切にしたい関係性で必要な絆・ベースになるものです。この4つのSがない人との関係は希薄でたとえ親子関係であっても、頼ることのできない存在になってしまいます。逆に血縁関係がなくても、この4つのSが揃っている人との間では、私たちに避難場所のようなスペースを与えてくれるので、たとえ人生で何度も逆境に直面し、失望や喪失を繰り返しても私たちは立ち上がることができます。それでは、4つのSについてみていきましょう。

「気にかけられている(seen)」

 

「気にかけられている」ー自分の本当の姿に親が深く共感し理解してくれる。

ACEを持つ皆さんの中には、子ども時代に「気にかけられている」と感じたことが記憶上ほとんどない方が多いかと思います。自分の行動を説明する前に頭ごなしに叱られたり、否定されたりを繰り返すと思っていることや生まれた感情は外に出る機会を失い、相手にとって自分はどうでもいい存在なのだと認識するようになります。

それとは反対に、自分の行動の裏にあるものに気づき、それを理解し、感謝してくれる人が現れると、自分の存在価値に気づけたり、大事にされていると理解するようになります。

親が本当の自分を見てくれている、考えや感情に耳を傾けてくれていると感じるだけで子どもの心に愛情が芽生えます。そのままの自分を認め褒めてくれる親からの無条件の愛情・理解されているという自尊心は子ども自身がストレスと闘うための力に変わります。そしてこの親の愛情は私たちが何歳であっても50歳70歳になっても私たちを強くしてくれます。

「安全(safe)」

 

「安全」ー子どもを怖がらせたり、傷つけたりするような行動、態度、反応を避ける。

この「安全」を子どもが感じ取ることが逆境の中でも子どもを強くするのに欠かせないものであることは次回の記事で詳しく説明します。どんなにいい親であってもいつも完璧なわけではなく、理想通りにはいかないこともあります。自制心を失ってしまった時に必要なのは、平静を取り戻したら、すぐに子どもに謝ることだそうです。記憶と逆境に関する研究によると「ただちに謝って事態を収拾させるほど、嫌な記憶や恐ろしい記憶は残らない」ことが確かめられています。子どもの脳の恐怖感知システムがたとえ作動したとしても「ついカッとなってしまって、怖がらせてごめんね」と言われると、その警告灯は消え、子どもにとって親は安全な存在に戻ります。

「落ち着かせてくれる(soothed)」

「落ち着かせてくれる」ー子どもにとっていつでも逃げ込める避難場所になってあげる。

子どもがストレスを感じるようなことを経験したらそばにいて抱きしめて子どもが不安と向き合えるよう助けることができます。愛情ホルモンとして有名なオキシトシンは親しい人とのハグによって分泌されるといわれています。そしてこのオキシトシンには抗不安作用があることがドイツ・レーゲンスブルグ大学のノイマン教授らによって見出されています。パンデミックの中でストレスの多い毎日ですが子どもをハグすることで親子共にストレスを軽減させ、不安や心配を緩和させることができます。

「守られている(secure)」

 

「守られている」ー毎日安心して過ごせると感じさせ、情緒を安定させる。

人は守られていると感じると恐怖感より安心感が上回るので、弱気にならずに問題に立ち向かうことができます。最近登山用の防水の靴を手に入れたのですが、普段だとぬかるみがあると避けて通るものですが、防水の靴を履いていると逆にワクワクしながら水溜りに入りたくなります。絶対に水が入ることがなくて不快な思いをしないことがわかっているからです。もし守ってくれる人が、いつも自分のことを気にかけ、何があってもブレない安全な存在で、落ち着かせてくれる人ならなおさら怖いものなしです。

今日からを新しいスタートに

たとえ自分が理想にしていた親でなかったとしても、むしろ嫌っていた親と同じ行動をしていたとしても遅すぎることはありません。

シーゲルによると、

頭は「きわめて”柔軟”で、経験によってすぐに変わる。何歳になっても健全でバランスの取れた精神状態に導くことは可能だ」

出典:小児期トラウマがもたらす病

完璧な親でなくても、私たち自身がストレスを受けていても、状況が落ち着いてから子どもと自分のために安定した環境をつくるなら新しいスタートを切ることができます。子ども時代が幸せか不幸だったかどうかは一瞬で決まるわけではありません。今からでも変えることができます。私たちが子どもや家族を救うのに遅すぎるということはありません。子どもにとって私たちが安全な避難場所になれるように、まずは私たち自身の心にこの4つのSを植えつけていきましょう。

あなたは「気にかけられていて」「安全」で大変な時でも「落ち着かせてくれる」存在がいて、「守られている」ことを忘れないでください。そう感じられるような人との交友を積極的に作ってみてください。そしてその関係を手放さないでください。この4つのSがあると私たちは、子どもであっても、大人であっても難しい問題が絶えない今つらい時でも負けない力を持てるので強くなれます。

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