ストレスに直面している人を安心させる方法
今 みなさんには落ち着かせてあげたい、安心させたい大切な人はいますか?
つらい状況にいる人を慰めるのにどんなことが思い浮かぶでしょうか?何かをしてあげたい気持ちはあっても、このご時世ハグをするのも難しかったり、どんな言葉をかけたらいいかわからないまま時期が流れたりと歯痒い思いをすることが多々あります。だれでも簡単に大切な人を落ち着かせ、心を穏やかにする方法があります。それは相手と「視線を合わせる」ことです。今回は「視線を合わせる」ことが相手を不安な状態から脱出させることにどう繋がるのか説明していきます。
視線を合わせる
よその家でお菓子を出された時に子どもが親の顔を見て食べてもいいか伺うシーンがあります。私たち大人も不安な時、周りの人の目や表情を見て自分を安心させようとします。これは「社会的参照」とも言われる行動で、自分だけでは決定や行動選択がしにくい場合、周りの人の表情や反応をみて行動を決定することを指します。
視線一つで私たちを安心させ自信を持たせて行動できるようにまでさせてくれるのは何故でしょうか。
「ポリヴェーガル理論」の提唱者である精神生理学・行動神経学者のステファン・W・ポージェス博士によると、相手を落ち着かせて心を穏やかにする方法に、目を見つめることをあげています。視線を合わせることで、脳、心臓、心拍、呼吸、顔の表情をつかさどる迷走神経が刺激を受けます。迷走神経を活発化させると心臓や肺を落ち着かせ、視床下部-下垂体-副腎系のストレス反応を抑える効果があると言われています。
もし、子どもや大切な人が不安を抱えているなら、自分が今やっていることを中断し、相手に向き合って視線を合わせ、愛情に溢れた優しい眼差しで「(いまやっている作業は)あとにするね。話を聞かせて」といった感じで抱えているものを引きだしてあげてみるのもいいですね。
不安を打ち消し一歩踏み出すために
社会的参照能力の実験で視覚的断崖実験という有名なものがあります。これは,赤ちゃんが透明のガラス板の上を渡れるかという実験です。興味深いことに向かいにいる親の顔の変化で赤ちゃんの反応が違うそうです。赤ちゃんは,進んでいくと床が透けているのでこのまま進んでいいのか怖くなります。そこで母親がニコニコと嬉しそうな顔をしていて大丈夫だよと自分の名前を呼んでくれると、いったん躊躇はするもののその表情に安心して母親のもとに向かいます。逆に、母親が悲しそうな表情や怒ったような表情をしていると、止まったまま動こうとしないそうです。
この実験によってわかるのは、赤ちゃんが不安な状況に置かれても一歩踏み出せるかどうかは信頼している親がどんな表情で自分を見守っているかによるということです。親の愛情に満ちた温かい眼差しは子どもを不安な状態から脱出させます。自分が愛されていて、心配されているーそのことが親の視線を通して子どもの脳に伝わると恐怖が安心感に変わりストレス下でも勇気を出して一歩踏み出すことができます。
この実験では親子の信頼関係の大切さも学べます。ガラス板の先にいるのが大好きな母親ではなく知らないおじさんなら結果はきっと違うものになっているでしょう。前回の記事「子どもに必要な4つの「S」」で取り上げたように安心感を持てる関係性であれば、私たちの「視線」は恐怖ではなく人を癒しまた勇気を出させるものになります。
今まで体験したことがないことにぶつかると、誰でも不安を感じ、パニックになることもあります。そんな時に信頼できる人がそばにいて目を見て大丈夫だとうなづいてくれる、それだけでも私たちの脳や身体の機能はストレス反応を抑え勇気を出して行動できるようになります。実際に会うのが難しい時は、ビデオ電話などを使うのもいいですね。一緒に泣くのも時には大切ですが、泣き終わったら目線を合わせて大丈夫だとすべてうまくいくとうなづいてあげてください。言葉が思い浮かばなくても、抱きしめることができなくても、あなたのその温かい目で相手の不安で凍りついた心や身体は溶けていくはずです。