私たちが抱える「障害」は「弱さ」の証ではない

「人の顔を覚えられない、学校や職場でストレスを抱えると無性に眠くなる、記憶容量があまりにも小さすぎる、聴覚に問題はないはずなのに話を聞いても理解できず話についていけない、何かに興味を持ったりやる気が出ない、未来の自分を思い描けない」

子ども時代に逆境を経験した方とお話しするとこんな悩みを話してくださる方がいます。
周りからは怠慢でやる気がないと思われることが多く、ご自身でも周りと比べて何もできないと感じ、自分自身を責めてしまう方もいらっしゃいます。
私も身に覚えがあることばかりで痛いほどわかります。以前は自分に問題があるんだと周りと同じようにできるようになりたくていろんな努力をしてみましたが、変わってない自分に挫折し、自分を責めては消えていなくなりたいと何度も思っていました。
今回ここでは、そんな私が自分を責めるのをやめる上で助けになった考えを紹介できたらと思います。自分が抱えている問題について調べていた中で、マルトリートメントが脳に与える影響について世界レベルで研究されている友田先生著書の「いやされない傷」、解離についてわかりやすく描かれている絵本「私の中のすべての色たち」に出会い、自分について違う視点で捉える助けになりました。
自分自身や育った環境を責めて身動きができず生きづらさを覚えているすべての人にとって何かの発見になればと思います。

生きるために身につけた特殊能力

子どもの頃に逆境を経験すると、脳や身体、心にたくさんの影響を残します。
ここでは脳に与える影響にフォーカスしてみます。
MRIを使った研究によると子どもの頃に虐待を受けると脳のあらゆる分野に影響を与えていることがわかっています。
ここに出てくる脳への影響ですが、一般的には「ダメージ」や「発達障害」とされています。でも本当にそれは「障害」なのでしょうか。
過酷な状況でも生き残りをかけて私たちの子ども時代の身体が下した「勇気ある選択」、生きるために身につけた「特殊能力」だったなら?
子ども時代の私たちを守るために脳がどう変化したのか闘ってきたのかを私たちは知る必要があります。

・海馬ー最も影響を受ける

言語記憶や情動記憶を作ったり、思い出したりするのに重要な場所
記憶を失くすことで辛い思い出や感情に蓋ができる

・視覚野ー性的虐待・両親の家庭内暴力を目撃して育った子どもたち

視覚野は目から受ける情報を処理する場所でそこが損なわれるということは、視覚による記憶や知能、学習能力に影響を受けるということ
右の視覚野は全体像を捉え、左の視覚野は細かい詳細な像を捉えるために働いている
性的虐待を受けたり、家庭内暴力が日常茶飯事に起こっている家庭では子どもは細かい部分を無意識に”視ない”ように適応している

・聴覚野ー日常的に言葉による暴力を受けて育った子どもたち

会話、言語、スピーチなどの言語機能
音声言語の理解、聞いた言葉を反復することを放棄(思い出さない)ことで、毎日耳から入ってくる暴言から身を守る

・前頭前野ー身体的な暴力を受けた子どもたち

思考、自発性(やる気)、感情、性格、理性などの中心の場所
何かをしてもやらなくても暴力を受け続けると、元々持っていた好奇心や考えることを放棄することで相手を過度に刺激しない術を身につける

・左半球と右半球のバランスに違いー左半球の脳の発達に遅れ

「大脳の左半球は言語を理解したり表現したりするのに使われる。
一方、右半球は空間情報の処理や情動、特に否定的な情動の処理や表現を主にしている」ー出典:「いやされない傷」

私たちの身体は、自分が今どこにいて敵はどこにいるのかを判断するために必要な空間処理、自分を日々苦しめる感情の処理など、自分を守るために必要な分野を機能させ、それ以外の言語を理解したり、詳細を認知したり記憶することで、心身に悪影響があったり、それを解決するためにカラダがする仕事量が増える場合、それらの機能を縮小させることで生き残る道を切り開いてきたことが分かります。それらは過酷な状況でも生き延びるために身についた特殊能力のようです。

勇気と強さの証

子ども時代の私たちが生き残るために何を手放し、残したのか、そんな勇気ある選択をずっとし続けてきてくれたことを私たちに教えてくれているのが、解離についてわかりやすく描かれている絵本「私の中のすべての色たち」です。

この絵本では、解離のさまざまな特徴を「わたしの中のすべての色たち」という素敵な比喩表現を用いて描いています。
わたしたちはみんな生まれつき、すべての色がそろった虹色の色鉛筆のセットを持っています。それによって「いきいきとかがやく私」を心のキャンバスに描き、世界で一人だけの自分を創り出していくことができます。
しかし、とてもつらい経験をすると、この心の中の色鉛筆セットがバラバラになってしまい、あらゆる色を失ったかのように感じてしまいます。
この本の中では、心の中の色鉛筆がバラバラになること、つまり「解離」についてこんな表現をしています。
自分が弱いとか、変だとか、何か間違ったことをしたから解離するということはないということを、いつも忘れないでいてください。それどころか、勇敢で、勇気があって、心の中にヒーローがいるから解離するのです!!! ー出典:「私の中のすべての色たち」
この表現は「解離」だけでなく、前半で挙げた脳への影響にも当てはまると思います。
本来であれば、子どもの頃の「脳」は親や周りの愛情を受けながら成長し、いろんなことに興味を持って学習し、人と出会いながらいろんな経験を重ね、情緒面でも発達していきます。
しかし、どこにも逃げ場がないほど追い詰められたとき、子どもに残された最後の手段として自分を守るために自発的に働くセーフティ・システムが起動し、自分が持つ機能を手放しだします。

「子どもは生き延びるために解離するし、これまでも解離してきたのです。実はそれは勇気と強さの証なのです」ー出典:「私の中のすべての色たち」

 

ヒーローで連想していくと、沈没していく船からみんなを救出するために、勇敢な人が自分を犠牲にし、女性や子どもを優先させて限られた救命ボートに乗せ避難させ、自分は最後まで逃げ場のない船に残り続けるといった情景を想像します。

子ども時代に逆境を経験した人たちは同じような状況かもしれません。
家庭内暴力を見ながら育った子ども、親との死別・離別・ネグレクトで親が(精神的・身体的に)いない状態で育った子ども、身近な人に虐待を受けて育った子ども、暴力の耐えない地域で育った子ども、学校のいじめの中で生きてきた子どもたち、、

彼らはどこにも逃げ場のない船のような場所にいます。頼れる相手もいなく、置かれている状況は自分で解決できる範囲をはるかに超えています。希望も、喜びも、自然に感じてもいいはずの怒りや悲しみも、満足感も、将来も、存在することさえ否定されるような極限状況に追い詰められたとき、子どもたちは生き延びるために一つの決断を無意識のうちに下します。
命を奪ってしまう危険な場所から救うために、自分は沈みそうな船にとどまり、自分の中のたくさんの色たち(感情、脳・身体・心の成長、個性)を自分から切り離して安全な場所へ救命ボートで逃れさせることを選びます。

その結果、「私」は何の色もない、無色透明な存在になります。虹色の色鉛筆たちを手放したので喜びも満足感も怒りも悲しみも感じられず、生きているのか死んでいるのかわからないような状態になります。たった一人いつ沈むかわからない船に残されているような状況です。
でも、思い出してください。虹色の色鉛筆は決してなくなったわけではありません!「私」が自分を犠牲にしてまで勇気ある行動をとって、救命ボートにそれらをのせて切り離したので、自分の中のどこかで無傷のまま生き残っています!
色を失ってしまうことはありません。色たちは手を取り合って一緒に活動することができるので、子どもはちゃんと自分の心の中の虹を感じることができるようになるのです。ー出典:「私の中のすべての色たち」

虹色の色鉛筆たちとの再会方法

これから必要なことは、あなた自身を安全な場所に連れて行き、あなたが救ってくれたおかげで無事に生き残った色たちと再会させることです。

そのためには安全な場所ーあなたにとっての安全基地を見つけるところから始めてみましょう。

安全な場所が確保できたら、今度はあなたが救った色たちとの再会です。

再会するためにはいろんな方法がありますが、私がよかった再会方法でスキーマ療法というものがあります。「スキーマ療法」は私自身専門にしている認知行動療法の発展型とも言われていて、自分自身の根っこの部分を理解して、生きづらさの原因になっているものを手放し、新しい体験に変えていきます。

認知行動療法の領域における第一人者の一人、伊藤先生はスキーマ療法を「ニキビを治すのではなく、ニキビのできやすい体質を改善する療法」と解説しています。「認知行動療法は浅いところを潜るシュノーケリング、スキーマ療法は安全装置をたくさんつけて深く潜るスキューバダイビング」とも例えられています。

「スキーマ療法」は深いところを潜っていくので、当然苦しくなります。自分で取り組めるワークブックがありますが、まずは安全基地を確保して苦しくなった時に対応できるようにしておく必要があります。ダイビングも初めていく場所や不慣れな場合、難関な場所を潜る場合はガイドの人や一緒に潜ってくれるバディがいると心強いですよね。

あなたにとって安全基地となれる人が身近にいるのなら、どうか一人では潜らずに頼ってください。きっとその人は、あなたがもし苦しくなって沈みそうになった時に、一緒に浮上して息をつけるように助けてくれます。息がつけたらまた一緒に潜ってくれます。潜ったその先の世界では深い闇で何も見えないように感じ怖くなる時もあります。でもあなたにはすぐそばにバディがいます。ライトを照らし岩にぶつからないようにガイドし、色とりどりの魚や珊瑚礁の存在に目を向けさせてくれます。あなた自身の色鮮やかな虹色の色鉛筆たちの存在を一緒に見つけてくれるはずです。

 

解離をはじめ日常生活に破壊的な影響を及ぼす症状を抱えていると、生きる喜びを感じられずゾンビのようになっていることもあります。周りと比べてあまりの自分のダメさに嫌気が差す時もあると思います。

そんな時に思い出したいのが、「普通」じゃないから悪いわけでも、ダメなわけでもなく、それは受けたトラウマの大きさを物語っているわけで、その症状は私たち自身を守るために生まれた「勇気と強さの証」であるということです!

もし子どものころの「私」が勇敢な決断をしてくれていなかったなら、今頃自分は船と一緒に海の底に沈んでいてこの世界に存在していないんだろうなと思います。

なので、弱いわけでもおかしいわけでもなくて、私たちのカラダは私たちを守るために一番いい方法で行動してくれていたことがわかると、子どもの頃の私たちはなんて勇敢だったんだろうと心から尊敬しますし、愛おしくも思えてきます。

もしあなたが抱えている障害や受けた傷、背負った過去を恥だと思い自己嫌悪に陥るときがあるなら、どうか思い出して自分に言い聞かせてください。

勇敢で、勇気があって、心の中に(あなたという)ヒーローがいたから、今あなたはここにいるということを。

私はそんな勇敢でずっと戦ってきた戦友のようなあなたのことを心から誇りに思います!

関連記事