水没しても腐らず生きる「ヤナギの生き様」から学べること
先日水没林を観に山形県の白川湖に行って来ました。
前回蔵王の氷瀑ツアーに参加した時にガイドさんに教えていただいた「水没林」
今まで水没林の存在すら知らなかった私に地元のガイドさんが親切に色々教えてくれました。
毎年3月下旬頃から雪解け水がダムに入ることで、洪水調整用に空けておいた容量部分に水が貯まり、ダムは満水状態になり白川湖に水没林が現れます。
5月上旬頃までは満水状態を維持しますが、5月中旬頃より大雨や台風に備えて、洪水調整用の容量を確保するために水位を下げていきます。そのため、年に1度の期間限定の景色となるそうです。
「たったの2ヶ月だけの絶景」
そんなことを言われると旅好きの我々は行くしかない!!!
一緒に旅をしていた友人と山形県への再訪問計画をすぐに立て念願の水没林を観に行くことができました。
今回はその水没林の絶景の主役でもある「ヤナギ」について調べてみました。
今まで「ヤナギ」というと枝垂れ柳を連想して、折れにくい木ということぐらいの認識しかなかった私ですが、水に浸かっても腐らず生きていく「ヤナギの生き様」から元気をもらえました。
河川で生きるヤナギから学ぶこと
白川湖の水没林を形成している木々は、主にヤナギ科の「シロヤナギ」という木です。
シロヤナギは、湿地を好む木で、名前の由来は白い幹からきてるそうです。
ちょうどこの時期新芽が芽吹き花を咲かせていて、カヌーで白川湖を巡っている間、風で舞う様子が幻想的でとても神秘的でした。
ヤナギの多くは湿地に生息しています。
ヤナギの枝は水につかったり、土砂に埋没したりするとすぐに根を出します。
この根は不定根(主根と側根以外の根)と呼ばれ、ヤナギが水辺で生きていくうえで役に立ちます。これがヤナギが水に強い秘密の一つです。
ヤナギは寒さにも強く、寒冷地でも成長が速いのが特徴です。
逆にヤナギは暑いところと乾燥したところでは生きていけません。熱帯地方や乾燥地帯でヤナギが見られないはそのためだそうです。
さらに、ヤナギは成長するのに十分な日光が必要でこのような樹木は「陽樹」と呼ばれています。
ヤナギにはたくさんの種類の昆虫集まります。
葉を摂食するチョウやガの幼虫にハムシやコガネムシなどの甲虫類、葉や茎の汁を吸うアブラムシやアワフキムシ、樹液に集まるカブトムシやクワガタにスズメバチなどなど。
ヤナギはこれらの昆虫の餌になるだけでなく、隠れ家としても一役買っています。
ある種類のガの幼虫は葉を折って巣を作るものもいます。昆虫が豊富ということはその昆虫を餌とする動物も豊かにします。野鳥などがそうです。
実際にカヌーでのツアー中にキツツキやアオサギに出くわしました^^
さらにそれらの動物を補食する猛禽類が見られることもあります。
ヤナギは河原の食物連鎖の始まりであり、生物全体の多様性に貢献し、河原の生態系の底辺を支えています。
・木陰をつくり水温上昇を抑制する機能で冷温性の魚類等にとって重要な働きをしている
・水生生物の餌資源となる落葉・落下昆虫等の供給をしている
・倒木や引っ掛かった流木が淵や隠れ場所、越冬場など、主に魚類の生息場を形成している
・土砂や窒素、リンなどを林内で捕捉、ろ過して水質を浄化している
・河畔は生物多様性の高い場所といわれ、魚類・昆虫類・哺乳類・鳥類など河畔を利用するあらゆる陸上生物の生活の場を作り出しその環境を守っている
こんな数えればキリがないほど素晴らしい特徴を持ったヤナギが昔から川や池の周りに植えられ自然の水害防止バリケードとなっていたのは納得です。
「ヤナギは水に強い」ということですがよくよく調べてみるとちょっと面白いことが出てきました。
ヤナギはヤナギでもその種類は多種多様で、一般の樹木と比べるとかなりの冠水耐性がありますが種によって特徴があり、湖畔で生きるヤナギの中ではその種によって「水に対する強さ」が違うということです。
「乾燥地に弱くても長期的冠水に耐える種」と
「乾燥気味でも侵入できるが冠水に弱い種」がいるそうです。
より冠水に強い種が水辺近くの前線で生き、
より乾燥地に強い種がその後方で支える
それぞれが各々の特性を生かして河畔の自然を守るために存在することを知るとその多様性の素晴らしさに感動します。
これがもし乾燥地にも強く、長期的冠水に耐えるスーパーパーフェクトだけども、たった一種類のヤナギしか存在しないとなると、単調な林になりそこで生きる生物の多様性もなくなってしまうんだろうなと思うと、ヤナギという木の種類の豊富さとそれぞれの特徴がもつ多様性の素晴らしさを感じました。
これは私たちに人にも言えることで、スーパーマンのようになんでもできるオールマイティな人間でなくて、得手不得手があるからこそいろんな職業や才能が生み出され、世の中の発展に繋がっていると思うと、自分や周りの人が持つ多様性を大切にしたいなと改めて思いました。
撹乱依存種であるヤナギから学ぶこと
・撹乱とは、山火事、山崩れ、台風、洪水、踏みつけなど予期せぬ時に起こる災害により、植物体の一部または全体が損傷を受けること
・撹乱依存種とは撹乱地に適応した植物種のこと
ヤナギの代表的な生息地である河川敷は、台風や大雨などで時々河川が氾濫する撹乱地にあたります。撹乱は植物に大きなダメージを与え、多くの植物の命を奪います。ところが、この撹乱はヤナギにとって有利となります。なぜでしょうか。
本来であればヤナギは陽樹(成長に太陽の光が必要不可欠)のため、競争には弱い樹木です。
なぜならヤナギより背丈が高くなるシイやカシなどが葉でヤナギを覆ってしまうと、ヤナギは生きていくのに十分な日光が得られなくなり枯れてしまうからです。
撹乱はこの競争に強い高木を一掃します。
実際、水上のキャニオニングに参加した際、雷による大木の倒木がありました。
樹に大人がハグして腕がまわせるくらいが寿命100年だそうですが、それよりも大きな木が雷で折れそこに陽の光が入ったことで約200年に一度の世代交代の瞬間を見ることができました。
高木は成長するのに時間がかかるため、侵入したとしても稚樹のうちに撹乱によって致命的なダメージを受けてしまうそうですが、なぜヤナギは撹乱地でも生きていけるんでしょう?
その秘密はヤナギの生態学的特徴にあります。
ヤナギの成長が速い点と、不定根(主根と側根以外の根)をすぐに出す点です。
ヤナギは枝葉を撹乱で失ってもすぐに不定根を出し、その後の急速的な成長で失った枝葉を再生することができます。
さらに、折れた枝が不定根を出し、そこから新しいヤナギの木が成長することもあります。
こんなわけでヤナギは、本来であれば競争に強いはずの樹木が侵入できない撹乱地という生息地に適応することで、冷温帯地方で繁栄することができているそうです。
河川は1年に数回は氾濫し、氾濫原に生息する植物は撹乱の影響を受けます。なので自然のままの河川には、ヤナギの種類は豊富です。
ところが、河川改修がなされた安定した河川では、ヤナギの種類は少なくなってしまいます。
これは、撹乱がないために、競争に強いシイやカシなどの樹木が成長することで、競争に弱いヤナギが衰退してしまうからだそうです。つまり人工的に整備されてしまった河畔林はシイやカシなどの単調な林に変わりそこで生きることができる生物も限られてくるということになります。
ヤナギの多くは数年に一度、必ず洪水で水をかぶるような川岸に生えています。時には、ヤナギ類の樹木も洪水で流されてしまうこともあります。
それでもヤナギがその悪環境でも生き抜いていけるのは、発芽後数年で種子をつけ始め、綿毛に包まれた種子が風に乗って、または川の水に流され新しい場所へ辿り着くことができるから。
ヤナギ類の発芽は、雪解けの洪水で堆積した砂や土の上で、洪水でいったん上昇した川の水位が下がっていく時その水際で起こっています。
頻繁な攪乱にも順応し、特殊な環境での異例な成長スピードと、風や水によって発芽に好適な場所に散布される種子をもっているからこそ他の木々が生き抜くことができないような悪環境でも耐え抜くことができます。
風によって種子が遠くまで飛び短期間で生育域を広げるため「速足の旅人(クイックトラベラー)」とも呼ばれてるそうです。かっこいいですね。
この白川湖で見ることのできるたった2ヶ月の絶景
それはその間、冠水に耐え自然を守ろうとするヤナギたちの勇姿でもありました。
人生においての撹乱を経験する人たちにも同じことがいえると思います。
ここ数年パンデミックによって心折れる経験をしても這い上がってきた人たちもそうですし、私が出会うACE(逆境的小児期体験)スコアが高くてもその環境で生き抜く方法を編み出し、自分自身が生き抜くだけでなく、関わるたくさんの人たちに勇気を与え、経験者だからできる必要な助けになっていたり、今現在水没しながらも、遠くへ種を飛ばそうと生きる人たちの姿には本当に心がアツくなります。
ヤナギのように背が低くても、寿命が短命でも、乾燥地で暑い場所で生きていけなくても大丈夫。
あなたには、ヤナギのように、撹乱地で生き抜くことができるあなたの強さをすでに持っているから。そしてヤナギに乾燥地に強いコたちと長期的冠水に耐えるコたちがいたように、あなたにはないものを支えてくれる心強い仲間があなたの周りにいるから。
私にとってのあなたのように。。たくさんのサポートに心から感謝しています。