メンタルダウンした人をサポートする時に意識したい6つのチアリーディング作戦
最近、手に取った本がメンタルダウンした人をサポートする側にも寄り添った内容になっていたので感動しました。
家族や友人、仕事仲間など身近なところでメンタル面での問題と闘う人が多い今、それが永遠に続くかと思うくらい低空飛行が続くとき、本人自身はもちろんですが、支え続ける側も疲弊してエネルギー不足になります。
頑張っているのに失敗してやはり自分はダメなんだと落ち込み傷つき、自信や希望を失って投げやりな気持ちになる。そういう状況から立て直すには相手のハートに直接ぶつかって奮い立たせることが必要な時もあります。
気力を蘇らせるチアリーディング作戦
自殺企図を伴う境界性パーソナリティ障害の改善に有効なプログラムを開発したマーシャ・リネハンは、境界性パーソナリティ障害の治療に取り組むことについて、「リーグ最下位のハイスクールのフットボールチームの、シーズン最終試合でコーチをするようなもの」と表現しています。つまり、どん底から大逆転を果たして、チームを勝利へと導くのと同じような技量と情熱が必要だということです。
失った希望や自信を取り戻し、もっと価値ある人生を生きようと新たな力を生み出すためには、すでに弱り果て、すっかり自信を失った本人の力だけでは困難です。 外から状況を把握し応援している者だからこそできることとも言えます。そのための作戦をリネハンは「チアリーディング戦略」と呼んでいます。
負け確定の試合で意気消沈した選手をもう一度自分の足で奮い立たせチャレンジさせる名コーチのように、メンタルダウンした人を鼓舞することができます。
名コーチのように必ずしも完璧にできなくとも、どうしていいかわからず、ただ助けたいという感情のままに闇雲に動くよりも、実際に有効的な方法を学ぶなら大切な人たちと向き合うときに活かすことが出来る指針になると思います。
それで今回は精神科医の岡田尊司さん著書「境界性パーソナリティ障害」から、「境界性パーソナリティ障害」だけでなくメンタルダウンした人をサポートする上で意識したいポイントを6つにまとめてご紹介します。サポート側もスーパーヒーローではないので、時として一緒に落ちそうになる時もあると思います。そんな時はぜひご自身にも役立てていただけたら幸いです。
1、どんな事態にも動じず、安心させる
弱っている状態では、小難しいことを言っても基本無駄です。まず、安心を取り戻させ、落ち着かせることが必要になってきます。
「大丈夫だ」「心配しなくていい」「きっとうまくいく」
といった言葉で大きく包みこんであげたいものです。
孤立無援感が、本人を思いつめた思考や行動、死へ追いやっていく大きな要因となります。
状態が悪いときに責めたり自己責任を強調したりすることは、見捨てられ感を強めてしまいます。苦しいときには助けを求めたらいいということ、決して一人ではないこと、いつも見守っていることを伝えます。
「一人だけで悩まなくてもいい」「一緒に考えて行こう」「いつも見守っている」
もしあなたが、サポート側で疲弊し苦しんでいるなら、あなたがあなた自身にもこの言葉かけてあげる必要があります。自分に言い聞かせる言葉(セルフトーク)としてもぜひコンパッション(思いやり)を込めて上記のような言葉を伝えてあげてみてください。
2、視点を切り替えさせる
過去のネガティブな出来事ばかりに囚われているとさらに弱っていきます。そんな時は見ている方向を切り替えさせる必要があります。
特に親として子どもをサポートしている方であれば、過去の子育てについて後悔をする時、過去のことは、いくら考えても変えられないけれど、未来は変えていけることを伝え、これまでの人生を嘆くよりも、これからの人生をいいものにしていこうと言い聞かせる必要があります。
「今まで苦しんだ分、これから取り戻そうよ」「過去は変えられないけど、未来は変えていける」
「あなた次第でどんなふうに生きていくことだってできるんだ」
といった言葉を、同じ一人の悩める人間として語りかけることもできます。
車の運転で自分の不注意で危なかった交差点を後悔して後ろに気を引かれバックミラーを見続けて前をほとんど見ていないなら、もっと大きな事故を起こしてしまう可能性があります。同じように過去のネガティブな出来事に捉われ過ぎてしまうと新たな困難に自分から突入してしまうこともありえます。もちろん過去と向き合うことが必要な時もありますが、走り出しているときは未来に目を向けましょう。
3、優れている部分に焦点を当てる
自信を失うと、どんなに優れた点をもっていても、自分が劣っていると思い込んでしまいます。長所よりも欠点ばかりを考えて、それを嘆いたり愚痴ったり、それが致命的で、人生終わったと考えることもあります。客観的に状況を把握できているサポート側は、本人が気付けていないネガティブな囚われを中和してあげることができます。
本人の嘆きや不満を受け止めた上で、
「でも、あなたの〜なところすごいなって感心してるよ」
「でも、あなたの〜なところを、○○さんがすごく褒めていたよ」
「あなたの〜のところ個人的に好きだなーって思ってるよ」
といったメッセージを伝えてみるのはいかがでしょう。
自分の不完全さへの嘆きや自己否定を受け止めつつ、それをもっと大きな肯定や賞賛で包むように返してあげることを何度も繰り返すなら、自己否定の傷口は少しずつ塞がっていきます。
私が好きな言葉で「美点凝視」という言葉がありますが、これは本人も気づいていないかもしれない相手の優れた部分を取り出し、相手に魅力として伝え、その人の美しさとして確立することです。
ただ肯定や賞賛の言葉をかける以上に、相手のちょっとした変化に気づいて、それを本人の成長として意識してもらうなら、それが励みや自信回復やきっかけになりやすいこともあります。
4、本人の可能性を信じ、それを伝える
失敗して傷つくことを恐れている人は自分の能力を低くみて、成功することよりも失敗の原因になることばかり考えてしまいます。
でも、本当はだれよりも頑張り屋さんで、自分を人に認めてもらいたいという気持ちも人一倍強いです。なので認められたいという気持ちをうまく励ますなら、勇気を出して、やってみようかというモチベーションにつながることもあります。
「きみなら、やれる」「あなたなら、やり遂げられると思う」「あなたならきっと最後にはうまくいく」「お前ならできると信じている」「きみは困難を克服する力をもっている」「きみには必要なものが、ちゃんと備わっている」
といったメッセージを本人に伝え続けることができます。でもその前に、このメッセージを伝える人自身が、本人の可能性を信じている必要があります。
自分に自信がない人は「どうしてそんなことが言えるの」と反論してくることもあります。そういう場合は「私にはわかるし、私はそう信じている」と答えるだけで大丈夫です。理由をいちいち説明する必要はなく、大切なのは、あなた自身が本人の力を信じること、希望を捨てないことです。
しかし、現実には何度も失敗が続くと、本人の力や可能性を信じられなくなる時もあります。専門家でさえも失敗のリスクばかりを考えて、本人の能力よりはるかに下のことしか求めなくなってしまうこともあります。現実的に本人ができる以上のことを求めて過剰な期待をかけることはNG行為ですが、本人に本来の自信と希望を取り戻させるためには、本人が簡単にやりこなせることよりも、少し努力すれば手が届く目標に向かってトライするように励ますことがチアリーディング戦略においてカギとなるポイントです。あまりにも簡単で、トライしがいのない課題を与えられるよりも、自分の能力を認めてもらえたと感じて、やる気や興味を示すことも多いからです。
また、弱っている状態のときに、本人の努力が足りないような言い方をするのは避けたいものです。よけいに力を奪ってしまうからです。あなた自身や一般的な基準から物事を捉えるのではなく、本人は一生懸命やっているのだという気持ちをもって接することが大切です。
時には、「無理しなくていいよ」という一言が、わかってもらえているという安心感に繋がるときもあります。
「よくやっているよ」「きみが思っているよりも、進歩している」
「この調子だね」「ずいぶん成長したね」
といった本人を肯定する言葉もかけることが出来ます。
まだ不十分な点や改善する点があるとしても、それはこれからクリアしていけばいい課題で、できていないことを指摘しても、それは意欲をくじくだけになってしまいます。
親や上司、コーチといった人を育てる立場の人にも、このチアリーディング方法は有用です。対象となる人のやる気を鼓舞し、目標に向かって進み続ける力となるからです。
5、「聞く」テクニックを磨く
一般的に話を聞く場合の基本は、共感しながら傾聴し、受け止めることですが、変化を引き出すためには、さらにもう一歩踏み込んだ「聞く」 テクニックが必要になります。それは、映し返し(ミラーリング)と呼ばれるテクニックです。
映し返しは、こちらの理解が的外れでないかを確かめながら、相手に自分の発言内容を伝え返す技法です。この方法は、本人の発言をそのままなぞり返すことから始まって、意味や意図を確かめたり、要約・整理したりすることも含まれます。その際一番大事なことは、自分自身の批判や評価を一切含めずに、鏡のように純粋に映し返すことです。
例えば、「それは〜ということ?」「きみが言いたいのは、〜ということかな?」と、相手の発言を要約することも大事な手法です。 「違う」という反応がきたら、説明してもらいます。この場合も、膨らみのある自然な会話を意識して、詰問したり非難するような口調にならないようにします。
言葉だけでなく、行動や考え方も、映し返すことができます。 「〜したということ?」 と、まず事実を確かめてから、「それは、どうして?」 「そのときは、どんな気持ちだったの?」と聞いてみます。相手がうまく答えられないときは、「もしかして〜という気持ち(意味)かな?」と、こちら側で言葉にしてみせます。「そうかもしれない」と返ってくれば、「その気持ちって、どんな感じ?」 と、自分の言葉で語ってもらうようにします。「違う」と否定するなら、こちらの考えは押しつけずに、「じゃあ、どんな感じかな」と相手の考えを教えてもらいます。
この映し返し(ミラーリング)には二つの効果があります。
一つは、相手の考えや気持ちを、より忠実に言葉にできるということです。 それによって本人は、自分をありのままに表現することを肯定されるという感覚を味わうことができます。自分の気持ちがわからなくなるとき、否定や評価をされずに話を受け入れてもらうのは自己認証の機会となります。本人は傷つけられることを恐れず、自分の気持ちや本音を述べることができるので、それが主体性を取り戻す一歩になります。
もう一つの効果は、セルフモニタリング効果です。自分の言葉や行動がそのまま映し返されることで、それを客観的に捉えることができます。ちょうど、自分の行動をモニター画面に映し出して見るような感じです。言われただけではわからない、自分の癖が一目でわかるので変えていこうという意識に繋がります。
6、ピンチをチャンスに変える言葉を使う
境界性パーソナリティ障害の治療法として開発され、薬物療法以外で最初に有効性が実証された治療法に、弁証法的行動療法(DBT) というものがあります。
この治療は「認証」とも訳されていますが、一言でいうと、ピンチをチャンスに変える受け止め方のことです。どんな悪いことや困ったことにも、必ずよい面や学ぶ点があるという発想で、物事を受け止める態度です。
白か黒か、100点か0点かという二分法的な思考パターンに陥りやすい人は、ちょっとした失敗でも自分は何をやってもダメなんだという考えになります。
そうした思考スタイルが、ありのままに愛することや信じることを困難にし、自分自身だけでなく、周りの人も苦しめてしまいます。
実はこの思考のスタイルは親や周りの人との関わりの中で身につけてしまったものでもあります。トラブルが起きると、非難されたり罰を与えられたりしてきたのでトラブルはダメなこと、トラブルを起こす自分はダメな人間だという自己否定を刷り込んでしまっています。
この状況から回復させるには、その逆をやっていく必要があります。どんな悪いことにもプラスの意味があり、それは必要かつ必然性をもった行為であって、そこから何かを学んでいけるのだ、成長していくきっかけにすることができるのだということを頭で理解するだけでく、心の底から実感し、身につけていくことが必要になります。
そのためには、普段の言葉遣いがとても大事になります。すぐに全否定したり、悪い点に過剰に反応する受け止め方を周りの人がさりげなく修正し、 全否定したことにもプラスの面があることに気づかせるような言葉かけをしていくことが重要です。
「それってこの先どんなふうにあなたの人生にいい意味で影響していくんだろうね」「それがわかったのって、ある意味すごいことだよね」「転んでも、ただでは起きないってやつだね」
私たちは悪い点やダメな点を発見する名人ではなく本人も気づいていない、よい面やプラスの意味を見つけ出す名人になることを目標にできます^^
せっかくよい面が出てきている場合でさえも、そこは無視して悪い点の方だけを問題にし、 「ちっとも変わっていない」「進歩しないな」と、一言で切り捨ててしまうならよくなるものもよくならないですよね。。
この認証という戦略も、子育てや教育、会社での部下指導など、いろんな面で応用できます。サポート側も自分や本人に対して100点を目指すのでなく、50点で満足するように心がけ、どんな状況に対しても常にプラスの意味を発見できる名人になるなら、たとえ今があなたにとって長い長いトンネルに思えるような日々であってもあなたの心を守ることができるでしょう。
今はまだあなたにとって人生最後のページではない
私はメンタルトレーナーとして、病気と闘うご本人以外にも、親や友人としてうつ病の方や障害を抱えた方を支え続けている側のメンタルケアをさせていただくことがあります。セッションの中でお話を伺うたび、彼らの長い忍耐と支え続けるモチベーションになっている本人に対する愛情に、深い敬意を感じずにはいられなくなります。病気という黒い渦に何度も溺れそうになりながらも懸命に生きるご本人や身体を張って寄り添うご家族の姿を通して、私自身命の貴重さをあらためて学んでいます。彼らの生き様を知ることができる機会を与えられていることに感謝しています。
今回ご紹介させていただいた「境界性パーソナリティ障害」のおわりに岡田尊司さんはサポート側の方々へこんな温かいメッセージを添えています。長文ですがどれも省きたくないので全文載せさせていただきます。よかったらあなた自身へのメッセージとして読んでみてください。
おわりに境界性パーソナリティ障害は、自己を確立するための産みの苦しみである。それは、病というよりも、 一人の人間が、これまで背負ってきたものを一旦清算し、大人として生まれ変わり、再生するための試練でもある。境界性パーソナリティ障害は、危機の時代を乗り越えさえすれば、必ず回復するものだ。止まない嵐はなく、春の来ない冬はない。しかし、その最中にあるときは一寸先さえ見えず、いつ終わるともしれない不安定な日々の連続に、すべてを投げ出してしまいたくなるときもある。この障害に陥った本人自身はいうまでもなく、支え続けている人々も、気力が尽きそうになることもあるだろう。でも、そんなときは、結果を急ぎすぎているのだ。そんな焦りが、かえって苦しみを生んでしまう。現状を心の中で否定しているのかもしれないし、それではかえって、出口は遠ざかってしまう。今ある姿を、ありのままに受け止めてあげよう。それが見苦しい姿であろうと、それこそが、生きようと必死にもがいている姿なのだ。本来のその子になろうとしてもがいているのである。初めてその子を抱いたときのことを思い出してみよう。今もう一度、しばらくの間、あのときと同じように、献身の時間が必要なのだ。三時間ごとにミルクを飲ませ、おむつを替えて世話をしたときのように、すべてをその子に注いであげよう。しかし、同時に、その子は今、親が与えたものを打ち消して、新たに自分を打ち立てようとしている。親が今まで通りのその子を求めようとするならば、その子は親を愛するがゆえに、これからなろうとする自分と、親が求める自分との間で、身を引き裂かれるような苦痛を味わうことになる。今こそ、親が縛りを解いて、その手を放し、その子の意志に委ねるときである。その子を信じて、その子の歩みを邪魔しないように、そっと下がったところから見守る必要があるのだ。その子の主体性の尊重と、ひたむきに愛情を注ぐという、二つの課題を同時に行っていかなければならない。それは簡単なことではなく、専門家でも完璧にできるわけではない。誰もが苦労しながら、試行錯誤の中で自分なりの関わり方を見つけていく。そして、関わり方が何となく掴めてきたと思う頃には、その過程はもう終わりに近づいていることだろう。この苦しい気の休まらないひとときは、かけがえのないほど密度の濃い時間となる。親子の絆を確かめ直し、足りなかったものを取り戻すチャンスを神様がもう一度与えてくれたのだと思える日が、必ずや来ることだろう。そのときは、きっと笑顔で、苦しかった日々のことを語り合えるはずだ。そんな日が、遠からず来ることをお祈りして、筆をおきたいと思う。二〇〇九年四月岡田尊司
もし今あなたが不安定な日々の連続に気力が尽きかけているなら、私はあなたにこのことを想いにとめていただけると嬉しいです。
「ここはまだあなたにとって人生の最後のページではない」
今この瞬間はあなたにとって人生の最後のページではなく、まだ途中に過ぎません。もしあなたが独りで闘っているように感じるなら私も一緒に闘います。
「足りなかったものを取り戻すチャンスを神様がもう一度与えてくれたのだと思える日」
「笑顔でこの苦しかった日々を語り合える日」
私自身もあなたにとってそういう明日がそう遠くないことを心から祈っています。
なのでどうかあきらめないでください。あなたにとってのその日が来るまで全力で応援します。