トラウマを受けた人に伝えたい7つのこと
最近ブログでトラウマについてフォーカスした情報をシェアさせていただいていましたが、今回もトラウマを抱えた当事者の方はもちろん、支援者の方やご家族に対して、トラウマがどのようなものでどう対処していったらいいか、参考になる︎本があったのでそこからいくつかに分けて内容をご紹介したいと思います。
赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケアは赤ずきんとオオカミの物語仕立てで、トラウマによる症状、回復のプロセス、支援の方法についてわかりやすく学ぶことができる本になっています。
トラウマを受けた人に伝えたい7つのこと
- トラウマ記憶は「冷凍保存記憶」
- フラッシュバックという症状
- 「過去の傷」を治すのではない「傷に影響を受ける今」を変える
- 「今・ここ」を豊かにする
- 語ることの意味
- 「助けて」って言えてますか?
- 未来の安全を確保する
今回は虐待など慢性的なものではなく、犯罪被害や被災など「単回生のトラウマ」によるPTSDを中心にその症状と回復についてまとめています。当事者の方も支援者の方も、トラウマについての理解を深める機会になっていただけたら嬉しいです。
1トラウマ記憶は「冷凍保存記憶」
トラウマ記憶の特徴1.無時間性・鮮明性
過去のちょっとした失敗や失恋など苦しい思い出も時間がたつにつれ、セピア色の記憶になっていきます。しかし、トラウマ記憶は数十年たっても、セピア色にはなりません。放っておけば鮮明なままです。
トラウマ記憶の特徴2.想起に苦痛な感情をともなう
トラウマの場合、痛みや不快感などの感覚や、恐怖や恥などの感情がそのまま生々しく残っています。思い出してしまうと、その瞬間のことを全身で再体験することになるので、そのときと同じような苦痛をともないます。
トラウマ記憶の特徴3. 言葉になりにくい
フラッシュバックが起こっているとき、脳の血流を調べると、右脳が興奮しており、トラウマ治療などで体験を語ることができたときには、両方の脳が興奮していたという報告があります。
右脳というのは、主にイメージの記憶をつかさどり、左脳は言語的な記憶をつかさどっています。実際はより複雑ですが、冷凍保存記憶は、簡単にいうと右脳を中心としたネットワークに格納されているかんじです。
できごとについて語ろうとしても言葉にならずに詰まってしまうのは、単につらくて話しにくいということだけではなく、 脳の記憶の仕方によるものと言えます。
2 フラッシュバックという症状
トラウマ後の3つの主な症状
生死にまつわるような出来事や性暴力などによるトラウマの後遺症として、次の3つの主要症状があります。
- 再体験: 被害当時の記憶が無意識のうちによみがえる
- 回避・麻痺 : 被害を忘れようと感情が麻痺する、そのために回避の行動をとる
- 過覚醒: 中途覚醒など、神経が高ぶった状態が続く
1再体験: 被害当時の記憶が無意識のうちによみがえる
「侵入症状」:過去のこととして思い出すのではなくて、今まさに起きているかのように再体験するのが 「フラッシュバック」で、睡眠中にそれが起きるのが「悪夢」です。「自分」の「外」に解離された冷凍庫からの記憶が意識の中に入りこんでくるために「侵入」される感じがします。
2. 回避・麻痺 : 被害を忘れようと感情が麻痺する、 そのために回避の行動をとる
目の前にある危険なものやイヤなものから逃げる逃避とは異なり、回避は、危険なものやイヤなものに遭遇しないように、もしかして遭遇するかも……と思うような場所は避けて通る行動です。
トラウマを呼び戻す引き金 (トリガー)はどこにあるかわからないので、この回避の症状によって、行動が非常に制限されることになります。
さらに危険を避けるために、トラウマをめぐる記憶を自分から切り離そうとすることも起こります。でも、トラウマ記憶だけ切り取るわけにはいかないので、その周辺を切り離して、徐々に自分が感じるさまざまな感覚を自分から切り離してしまう。これが「麻痺」 です。
「今日は天気がよくて気持ちいいなあ、だんだん春になってきたな」などといった、今まで自然に感じられていた、細やかな季節感や幸福感 、愛情の感覚など微細な感覚や感情が失われてしまいます。
3. 過覚醒: 中途覚醒など、 神経が高ぶった状態が続く
人はストレスを感じると、神経がピリピリと高ぶって警戒します。この状態が続くのが、「過覚醒」です。なかなか眠れなかったり、イライラと焦燥感にかられたり、少しのことで怒りや攻撃といった反応をしたり、集中困難になったりします。
これは、集中力がなくなるわけではなく、今必要なこと以外の刺激が入ってきて、そのあらゆる刺激に対してセンサーが働くために、一点に集中できなくなるためです。
これら3つの症状に加えて、アメリカ精神医学会による診断基準「DSM-5」では、認知や感情の否定的な変化が起きることが言われています。
3「過去の傷」 を治すのではない「傷に影響を受ける今」 を変える
症状だと気づく
単一の事件によるトラウマでは「再体験症状」「過覚醒症状」 が強まることが多いですが、日常的に繰り返されるトラウマの場合は、特に「麻痺」や「解離」が強く出てきます。 麻痺は「感じなくてすむ」ように、解離は「それが自分ではないようにすることで自分を守ろうとする」のですが、それは一時しのぎにすぎず、結果としてさまざまな障害が現われてきます。感情の調節が難しくなったり、自己破壊的な行動をしたり、自己イメージや対人関係にいろいろな問題が起きたりします。
大切なのは、これらが「症状なんだ」と気づいていることです。「これは症状だ」とわかるだけでも、少し落ち着くことができます。トラウマ治療というと、過去の傷を治すことだと思っている人がいるかもしれません。また過去にばかり目をやってどうするのかと批判する人もいます。 でも、それは違います。
過去を変えることはできません。回復するというのは、「過去の傷に影響を受けている今」が変わるということです。
「3つのF」 と神経系
1. 闘争 (Fight一戦う、立ち向かう反応)
怖い目に遭うと、その恐怖を克服できるような強い自分になり、危険に立ち向かうことで、生きのびようとする人もいます。
自分の苦しさは横において、同じような被害に遭う人をなくすため、果敢に立ち上がり戦います。その戦いによって自分の身近にいる人を守ることができても、戦いに終わりはありません。
2. 逃走 (Flightー逃げる、 回避する反応)
ある人は、危険から逃げたり、あらゆる危険を避けることで生きのびるようとします。
例えば、研究室にこもって顕微鏡をのぞき、微生物の研究を黙々と続けます。その人にとっては、レストランで楽しく食事をするようなことまで含めて、人との接触は危険をともなうものと感じてしまいます。何かに熱中するというのはいいことですが、それが回避の手段になると、自分の人生を狭くしてしまいます。この Fight・Flight は、交感神経系のはたらきです。
3. 凍結 (Freeze固まる、動けなくなる反応)
特に幼い子どもに多い反応ですが、強度の強い被害体験だと成人にも起きます。トラウマを受けたときの否定的な考えが、その人の中核的な認知 (スキーマ) となってずっと影響を及ぼし続ける、パターンです。
「どうせ自分は疫病神なんだ」「自分には幸せになる価値がない」と思いこんでしまいます。そのため、自分を大切にする選択ができず、さらに自分を痛めつけるような出来事に遭遇しやすくなります。そうやって「自分は価値がない」という信念を強めてしまい、メンタル面に支障が起きやすくなります。
Freezeを司るのは、2本ある副交感神経のうちの背側迷走神経です。フリーズ時には交感神経と副交感神経が同時に興奮しているので、まるでアクセルとブレーキを一緒に踏んでいるような状態になります。そのため自律神経系の障害をきたしたり、心身症的な症状も現われたりしやすくなります。
4 「今・ここ」 を豊かにする
大きな過去と小さな今
トラウマの冷凍保存記憶を持っている人は、脳に大きな負荷がかかっている状態です。トラウマ記憶は、言葉で綴られた記憶ではありません。 映像や、感覚や、音などが詰まった記憶です。スマホのデータでもそうですが、言葉よりも、画像や音声入りのファイルは、何十倍もの大容量になります。
脳の中に毎日使う「作業テーブル」があるとしたら、その上に「大きな過去」と「小さな今」がのっています。
大容量のトラウマ記憶が幅をきかせていて、「今ここ」が使えるスペースがごくわずかという状態です。作業テーブルの空いた場所、つまり「ワーキングメモリ」が少なくなると、ADHD(注意欠陥多動性障害) のような状態になりやすくなってしまいます。性被害や犯罪被害など大きなトラウマ体験のあとに、片づけなどができなくなる現象は、こうしたことも関係しています。
そういうときには「今ここ」を意識することで、作業テーブルの陣取りを少しでも増やしていくことが大事です。すると「トラウマ」のスペースが小さくなっていきます。「今ここ」を意識するのにもっともよい道具は、呼吸です。 腹式呼吸をしながら、自分の吐く息、吸う息に注意を向けます。他にも色々あるリラクセーション技法も役立ちます。
実際に、東北大震災で派遣されたカウンセラーの方々で、話を聞くことに成功したカウンセラーが最初にやっていたのは、ハンドセラピーだったそうです。津波で家族の悲惨な姿を目にした人たちはとても自分から口を開くことができない状態でした。しかし、マッサージを受けることでオキシトシン効果もあって、カラダがほぐれていくうちに被災者たちのこころもほぐれて、徐々に話せるようになっていったそうです。
人に触れられることに恐怖を覚えない人にとっては、マッサージは、触れてもらう(皮膚刺激)ことで自分の存在を認識でき、五感を通して「今ここ」を感じることのできるおすすめの方法の一つです。
逆にアルコールや薬物やギャンブルなどの酔いや刺激にひたるのは、「今を麻痺させる」手段です。
どうか「今・ここ」を豊かにするような方法を身につけていってください。踊る、歌う、楽器を弾く、身体を動かす・・・どれも「今ここ」に集中する作業なので自分に合ったものを選んでみてください。
リラックスしたり、身体を使って今を意識する作業をしたりすると、「自分が自分の身体の中にいて安心できない」 感じに気づくこともあります。リラックスすると覚醒水準が下がり、抑圧していたイヤな記憶がよみがえることがあるからです。
その場合、54321法やテトリスなど「集中しながらリラックス」するような方法を試してみてください。
・54321法
今ここで見えるもの聞こえるもの・感じるものを、最初は5つずつ口に出し、次に4つずつ、3つずつ… 最後に1つずつ言う。
・テトリス
北欧での研究でイヤな記憶を思い出した直後にはテトリスをやるのが効果的だということが知られています。記憶は思い出すと一時的に不安定な状態になり、思い出すごとに記憶は書き変わります。何もしないと同じ記憶が再び脳に再固定されるだけになってしまいます。
テトリスは知視覚的・空間的な脳、つまり「扁桃体」を使います。トラウマ記憶が扁桃体に記憶されることを逆手にとって、テトリスで扁桃体を忙しくしてあげることで、トラウマ記憶が扁桃体へ再固定されることを防ぐ働きがあるそうです。
「テトリスには色や空間が関わってきます。段を完成させるために、ブロックを左右に移動させなければなりません。そして何より重要なのは、心の目でブロックを回転させる必要があることです。ブロックを正しい位置にはめるために、頭の中で思い描く能力が求められます」
スマホにテトリスをDLしておいて、悪夢をみた日、イヤなことを思い出した時、やってみて気分を落ち着かせてあげるのもいいですね。
5 語ることの意味
安全・安心の中での再体験
トラウマ記憶は言葉にならない記憶です。
トラウマ体験のその瞬間に、DNA から m-RNAが放出され、たんぱく質が合成され、五感、感情、思考、身体状態などすべてを含む体験がまるごと、記憶のネットワークとして固定されます。これが「冷凍保存記憶」です。そして凍ったものがとけていくためには、その「まるごとの記憶」が言葉として語られ、物語記憶という形で整理されることが必要になります。物語記憶として形成されるためには、本人が批評も非難もされずに、安全と安心の中で語れることが大切になってきます。
相手を信頼して語れるなら、徐々に感情が出てくるかもしれません。「あのときは、本当に怖かった…」 と、身ぶるいして、涙を流しながら、でもひとりではないと思える状況で感情も交えながら語ることができたら、変化が起き始めます。その人の中で物語記憶になったときには、具体的な五感や感情が消化されている状態です。
これを「トラウマの処理」ということもあります。トラウマ体験が、あのときのまま凍りついたものではなく「過去の出来事」として再編集されるということです。記憶は常にアップデートされます。 語るたびに細部が変化したり、焦点が移ったり、自分にとっての意味が変わったりすることが起こります。
トラウマ記憶も、安心できる場で安全な相手に向けて何度も語っているうちに、それにまつわる感情や感覚などが整理されて、今を脅かすことのできない「過去の」物語記憶になっていきます。だから、話したり書いたりして表現することはとても大切です。
気持ちに名前をつける
トラウマの症状のひとつに「麻痺」があります。「麻痺」とは、つねっても痛くない、というように「悲しいのに泣けない」 とか「怒りたいのに怒れない」というようなあるべき感情を感じられない状態です。
感覚や感情の麻痺は「トラウマ体験」の最中に自分を守るために行なう適応の形です。被害に遭ってる最中は自分の心がそれ以上壊れないようにするためには最適な方法をとっているとも言えます。しかし、その後も感情が麻痺した状態だと危険です。
感情を感じるシステムがシャットダウンしてしまい、「自分の気持ち」がわからなくなったり、「気持ちの幅」 がわからなくなったりします。ストレスがかかっていることを気持ちとしては受けとめきれずに、何かのきっかけで行動として唐突に反応したり、ストレスを身体にためこんだりすることもあります。
気持ちをなんとかコントロールしようとして、アルコールや薬物、食べること、自傷などに依存していく場合もあります。 また「いい」「イヤ」といった白か黒かの感情しか認知できず、「楽しい」「うれしい」「悲しい」「悔しい」といった、たくさんの色彩をもった感情の幅を失ってしまっていることも多いです。
自分の中にたくさんの豊かな気持ちがあること、世界にはいろんな色が存在することに、 少しずつでいいので気づいてあげてください。自分の毎日を観察して、感情に名前をつける日記をつけてみるのもいいですね^^
一日の終わりに自分の行動を振り返ってみて「がっかり」「あんなことで反応して自分情けないな」などネガティブなものが出てきても、決して自分を責めず、まず「そういことがあればそう反応するよね、わかる〜」と自分の気持ちを認めてあげてください。それから次同じようなことがあったときにどうするか対応策を考えます。例えば、反応する前に深呼吸する、水を飲むなど、一拍おいて冷静になれるスイッチを自分に作ってあげます。
自分一人ではなかなか気づくのが難しい方は、だれか信頼できる人に手伝ってもらってみてください。友達や家族と一緒に、感情をさぐるワークもできます。たとえば、3分間にできるだけ多くの感情を書き出し、その感情を持ったできごとについて語り合う、などです。
感情に名前をつけ、自分を理解し、自分の感じ方や行動を調節していくーこれは認知行動療法の一環です。自分自身を客観的に観察することが習慣になると、感情という台風から少し離れることができるので振り回されることが少なくなっていきます。
以前聞いた話ですが、ドイツの事件で、友人たちと集まっていた際にいきなり襲撃を受けて目の前で友人たちを殺された人とようやく連絡がついた時の第一声が、怒りや悲しみの感情ではなく、周りの支えに対する感謝の内容で、逆になんと言ったらいいかわからなかったーというものです。日本でも、被災したり、事件や事故に巻き込まれたりされた方の話をうかがうと、感謝の言葉をよく耳にします。
感謝する気持ちは本当に大切なことですが、私にとってはそれだけを口にされる方のことは逆に心配になります。その人にとっての「あるべき感情を感じられない」からです。そういう場合、麻痺状態が続いている可能性があります。
「自分は生き延びたんだから、感謝しないとバチが当たる」「亡くなった人の分も背負って生きないと」など、感謝することが義務や責務になって、自分が感じているはずの、持って当たり前の感情の存在を放置してしまうと、それはやがて孤立感につながって心身に有害な影響を与えます。もし今あなたに麻痺状態が続いているのであれば、6番目にあなたに伝えたいことがあります。
6「助けて」 って言えてますか?
「援助希求」ー「助けて」と言える能力
あなたは困ったときに、誰かに「助けて」 と言えますか? どうせ無駄だとあきらめていますか?弱音は吐いちゃだめだと思っていますか?
「助けてほしい」と感じて、「助けて」 と言えるのは、「援助希求」というひとつの能力です。決してだれかれなしに声をかけるというわけではなく、安全・安心な人と「つながれる」ようになること、安全・安心な人に 「助けて」 と言えるようになるのは生きるうえで大切なスキルです。
つながりは一歩ずつ
安全安心な関係を作る練習は、同じような立場の仲間が集まる自助グループや、施設などで始めることもできます。治療者や支援者とのつながりを作ることも、安心のためのネットワークを自分の周囲に育てることになります。
幼少期に助けてほしい時に助けてもらえなかった経験を重ねていたり、頑張りすぎる人たちに囲まれて助けを求める感覚が元々身についていない場合、だれかに心を開いて頼るというのはとても難しいです。
私にも身に覚えがあります。もう傷つくのが怖くてちょっとでも、相手の中に信頼できない部分・合わない部分を見つけると「アウト!!」だとジャッジして、「やっぱりだれも自分のことなんてわかってくれない」という信仰を育てていた時期もかつてはありました。
なので、もし以前の私と同じような思考を持っている方には次のアドバイスを贈ります。
「最初から、すべてを信じられる相手を見つけること、自分のすべてを受け入れてもらえる人を探さなくていい」ということです!
関係は一歩ずつ作っていくものです。相手を少しずつ理解し、自分のことも少しずつ知ってもらえばいいんです。
私は、20歳の時からメキシコに行って放浪の旅をしていました。言語も習慣も常識も何もかもが違う人たちと出会って、共通点が人間であることくらいの関係性から、友情を育てていく過程が、私にとってある意味、人間不信だった自分を癒した時間にもなりました。
お互い同じだという概念をそもそも持っていないので、感じたこと、思っていること、考えていることを丁寧に伝え合う機会を意識的に作ることで、心を開いていく心地よさを学びました。
外国で治安も良くない場所だったのもある意味よかったのかもです。日本だとある程度なんでも自分でやっていける環境とは違い、生きるために助けを求めなければいけない事態になることが何度かあり、強制的に「援助希求」せざろ得ない状況でした。
以前の私だったら、幼い時に何もできなかった自分に戻りたくなくて、一人でも生きていける強い女性として生きられるということを自分自身に証明するために頑張りすぎていました。
しかし、メキシコのスリリングな環境と愛情深いメキシコの友人たちとの数年間のおかげで、助けを求めて、求めているもの、またはそれ以上のものが返ってくることの経験の積み重ねで、「頼ることは弱さではなく、生きていくために必要なスキル」だと気づきました。そして、そのスキルはただのスキルではなく、自分の存在価値を感じさせるものになったり、自分を縛り付けていた凍った記憶や感情を温かく溶かしていくものになっていました。
7未来の安全を確保する
回復はらせん階段
トラウマからの回復は、重症例をのぞけば 「心理教育」 「セルフケア」 「スキルの構築」 の三本柱で可能です。
つまり、
●トラウマとは何か、 それがどう現在に影響するかを知る
●自分を大切にするセルフケアの方法を身につける
●生きていくための多様なスキル (感情表現や人間関係など) を身につけることが重要です。
回復は、安全が確保されて初めて可能になります。 その上で、被害を受けることによって失っていた自己コントロール感や自己尊重感を手にし、自分の人生の主権を取り戻し、自分の生き方を自分で選択できる、生きることを楽しめるようになっていきます。
その回復はシンプルに一直線に進むものではありません。「記憶の解凍」は安全が確保されて初めて起きます。少しよくなった、楽になったと思った途端、記憶が噴き出してきて混乱します。私の友人たちの中にも、結婚後ようやく相手との信頼関係が築けた頃に記憶の解凍が始まったという人が数名います。
また前へ進んだと思うと次の問題にぶち当たって、一時的にまたしんどくなったり、しんどくなったことで過去の症状が戻ってきて後戻りしているように感じることもあります。ちょうどらせん階段のようなものです。私も帰国して何度か、らせん階段を昇り降りしているように感じた時期がありました。
そういう時は、行きつ戻りつしながらも、俯瞰して自分の人生を全体像で捉えて「全体的にはよくなっている」 と感じられることが助けになります。
「再び被害を受けない」ことも重要です。一度被害を受けると、同じような状況でフリーズしてしまうため、再被害を受けやすくなります。 再被害を受けると、自分が大切にされない体験、自分が自分自身をコントロールできない体験をさらに積み重ねることになってしまいます。なので対人関係のスキルを学んで再被害を少なくすることで、回復度が上がっていきます。
自分を大切にしてくれる人とつきあえること、危険を避けられること(自分を害する人との距離を置けることも含め)、自分にも相手にも100パーセントを求めずに 「折り合いをつけられる」「妥協点を見つけられる」ことが大事です。
再発に備える
回復の途上で、かつての症状(フラッシュバックや麻痺、過覚醒など)が戻ってくることがあります。どんなときに再発が起こりやすいか知っておくだけで役に立ちます。
■記念日反応 (アニバーサリー・リアクション) 命日反応
出来事があったのと同じ日付、月の中の同じ日、同じ曜日、同じ時間帯などには、フラッシュバックや、その他の症状での再燃が起きやすくなります。
■ストレスがかかったとき
無理をして心身が疲れたり、大きな決断や心配事などを抱えているときです。似た気持ちをもったときかつてと同じような恐怖、不安、混乱などに直面したときです。
■失恋、離婚、離職など関係の変化
これまで続いていた人間関係を失ったり、 関係が揺らいでいるときです。
■妊娠出産
心身の変化や、親となることへの不安やためらいなど、さまざまなストレスから状態が不安定になりがちです。
「今は」ひとりではない
ネットのこっち側にいるやつ全員もれなく味方なんだよ。下手くそ上等!迷惑かけろ!足を引っ張れ!それを補ってやるためのチームであり先輩だ!!
バレー漫画『ハイキュー‼︎』で出てくるワンシーンのこの名言。
「うまいことなんでもこなせないといけない」「迷惑なんてかけられない」「足を引っ張るな」ーそう教えられる日本教育で育つ私たちが思い出したい一言です。
私たちは「あの時」とは違って「今は」もうひとりではありません。気にかけて手を伸ばしてくれる味方がいます。
私もあなたの「ネットのこっち側にいるやつ」の一人です。あなたが迷惑をかけてくれるのを楽しみにしています^^
Thank you for being alive.