デフォルトが戦闘態勢の子どもたち
この記事を読んでおられる方の多くは、幼少時に少なくとも一つの逆境を経験されているかもしれません。逆境のカタチはそれぞれで、苦しみの訪れ方もさまざまです。両親の病気や死。別れ。突然の事故。メディカルトラウマ。機能不全の家庭。長期間の逆境を経験した子どもは脳の構造が変化して損傷を受けますがその傷は地域や逆境のジャンルを問わず似ていることがACE研究によってわかるようになってきました。
デフォルトが戦闘態勢だと身体の中で炎症を引き起こしている
ドア越しに物音がすると誰かがいると感じ警戒する。このとき脳から各部に指令がいき、命を守るための戦闘態勢を整える。やがて、それが愛犬の足音だとわかると緊張した筋肉は緩み速くなった脈も元に戻る。本来ストレス反応は、ストレス要因に反応して防御態勢を取り、身体をリラックスさせ元の状態に戻るまでがセットです。しかし、長期間逆境下で生きてきた人は、元のリラックスした状態には回復せず、常に戦闘態勢のスイッチが軽く入った状態になるため少量の炎症性物質がたえず発生していることになります。炎症はさまざまな症状や病気を意味していますが、火事のように誰がみても明らかなものは気付きやすいですが、自分でも気付きにくいボヤのようなものが身体の中でずっと起こっていると考えるとわかりやすいかもしれません。
リラックス状態に戻るよう命じる遺伝子スイッチがオフになる
幼少時のストレスは脳に変化を起こし、免疫システムがリセットされます。その結果、ストレスにまったく反応しなくなるか、逆に過剰に反応してストレス反応を止めることができなくなります。
脳が発達段階にある子どもの頃に、慢性的なストレスを受けるとストレス反応をコントロールする遺伝子に対して機能をオフにするマーカーが立ち、脳は生涯にわたり反応を正しくコントロールできなくなるそうです。いわば「ブレーキが効かない状態」になっています。そのため、何十年もの間無意識に炎症を起こす物質に侵されているうちに次のような症状がいつ爆発してもおかしくない状態が出来上がります。ー過敏性腸症候群、自己免疫疾患、線維筋痛症、慢性疲労、類繊維腫、潰瘍、心臓病、偏頭痛、喘息、がんなど。
予測不能な慢性ストレス
風邪をひいて寝ているといきなり布団を剥ぎ取られ気が済むまで殴られる。シャワーを浴びていると、いきなりドアが開いて蹴り上げられた足がお腹に食い込む。その日の気分でご飯がもらえなくなる。親同士の暴言の中に自分の名前が突然出てくる。
人生を委ねている相手が襲いかかってくる、しかもそれが原因がわからないとしたらどうでしょう。次の精神的・身体的アタックがいつくるか、もし察知しているならそれをかわすこともできるかもしれません。しかし、子どもには攻撃がいつ、なぜ、どこから来るのかが予測できません。
マウスを使った研究によると、強いストレスであっても毎日同じ時間に同じ方法で与えるとうまく対応するようになるそうです。もうすぐ来て、じきに終わることも知っているストレスには脳の変化や炎症、疾患は一切見られていません。一方、軽いストレスでも、毎日バラバラの時間に異なる強さで予測不能なストレスを与えると、脳に著しい変化が表れ病気になったり潰瘍ができたりするそうです。冬や夏のように寒さや暑さがはっきりわかっていると対処しやすいですが、春の時期など1日の間で寒暖差が激しいと対応しきれず身体を壊しやすい、そんな感じでしょうか。
ACEの質問表には「長期間にわたる暴言」に関する質問ー「家にいる親や大人が、あなたを罵ったり、侮辱したり、けなしたことがある。」というものがあります。やさしく抱きしめてくれる日もあれば、次の日には罵倒されるそんな大人にとっては些細なことでも、次の行動が予測できない一貫性のない親の言動は子どもにとっては予測不能な逆境になりえます。
と言っても、親も人間ですから、いつもパーフェクトに愛情を注げるわけではなく、仕事や人間関係でうまくいっていない時、体調が悪い時など自制心を失うこともあります。そんな時は、深呼吸して90秒数えていつもの自分に戻れたら、子どもに「悪かった」「あなたは悪くない」「ついカッとなってしまって。怖がらせてごめんね」と伝えましょう。そうすれば、子どもは今回がイレギュラーの出来事だと認識し警戒体制を緩めることができます。
味方を殺しだすミクログリア
白血球の代わりに脳内の免疫防御を担っていると言われているミクログリア細胞は異常がないか常に監視しています。死んだニューロンを貪食し脳内のお掃除をする役割もありますが、予測できないストレスを繰り返し受けるとミクログリアは正常な働きを失います。暴走し健康なニューロンまで殺してしまいます。
正常なミクログリア細胞をマウスの脳に投与すると、うつ病の兆候が完全に消えることが実験によってわかっています。つまり、これは逆を言えば、ストレスにさらされ正常な機能を失い味方である健康なニューロンを殺してしまうミクログリアが脳内を支配しているとなると、私たちの心の健康は確実に損なわれていきます。
戦闘態勢がデフォルトではなくなる未来
小児期の逆境によるストレスへの過剰反応は、何年経ってもどこにいても顔を出します。しばしば心身の不調を感じ、なんでもないことに傷つきます。周りが難なくできているようなこともできない自分に苛立ちと虚しさを覚えます。でも、私たちはその傷を癒すことができます。喜びにも悲しみにも正常に反応できるようになる方法はたくさんあります。脳は柔軟性があり、修復可能だからです。
もしあなたが今まで鎧を脱ぐことができなかったのであれば、これから羽を休められる場所を作っていきましょう。だれかにとっての安全地帯の場所になれるようにサロンもご用意しています。そして、いつかあなた自身が本来のあなたに、逆境経験がなければなっていたであろうあなたに出会える日が一日も早く訪れるよう願っています。
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