ぼくが汗をかかない理由

きみの額から流れるキラリとした雫を見て

綺麗だと思った

自分にはないものだから

 

大きな耳をからかわれて

ライオンみたいなかっこいい耳に憧れていた

あまりにも周りと違いすぎて

 

チーターみたいに

すべすべでスマートなボディと比べて

シワだらけの顔を見たくなくて

水面に映る自分の姿から目を逸らす

 

みんなと同じように生きたくて

何度も神さまにお願いしたけど

この姿が変わることはなかった

「普通」になりたくて

 

世界最古の「なにもない」砂漠で

独り立ちした時に

ここで生き残っていられるのは自分が

「普通」じゃないからだと気づいた

 

もしぼくに汗腺があれば

ぼくは汗に溺れて

雨の降らないこの地で瞬く間にミイラと化すんだろう

 

恥ずかしかったこの大きな耳が

土を被って灰色のおばけみたいなメイクが

シワだらけのこのブヨブヨの皮膚が

カッコ悪くて大嫌いだった

 

自分が嫌うそのひとつひとつが

クーラーのように身体を冷やすものだと

尊厳を失うことなく自分らしく生きるためのものだと

知るまでは

 

ぼくがぼくであり続けるために

この環境で生き残るために必要なアイテムは

もうすでに持っていた

 

「象は決して忘れない」

消したい記憶もある

それでもその昔

日照りの日々どう生きるか教わった記憶があるから

今ぼくは生きている

 

大きな耳も

シワだらけのからだも

相変わらずキマらないメイクも

忘れられないシステムも

相変わらず嫌いだけど

そんな自分を不思議と愛おしく思えるようになっている

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